【連載25:AFTER】ほら…あそこがうずくだろ?「お願いもうやめて」でも逃げられない

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2回キスをしたものの、会えば衝突ばかりのテッサとハーディンは、文学の授業中に大ゲンカしてしまいます。『高慢と偏見』の登場人物たちと自分たちを照らし合わせ、言いたいことを言い合った結果、クラス中の笑いものに……。たまらず飛び出したテッサを、ハーディンは追いかけるのでした(前回)。

 

■ほら……あそこがうずく

わたしはハーディンに背を向け、人通りの多い歩道に目をやった。学生たちがきょとんとした顔でこっちを見つめている。彼のほうに向き直ると、すり切れた黒のTシャツの裾の小さなあなに指を突っこんでいた。

てっきりハーディンはにやにやするか声をあげて笑うものだと思ったけど、そうではなかった。傷ついているふうに見えなくもないが、彼はわたしの言うことを気にするような人じゃない。

「こっちだって、きみとゲームをするつもりはない」彼は髪をかきあげた。

「じゃあ、何? どこかの気分屋のせいで頭痛がする」まわりにちょっとした人だかりができていた。ボールになってどこかに転がっていきたかったけど、ハーディンが次に何を言うのか聞かなければならない。

なぜ、彼と距離を置いておけないの? 毒のある危険な人物だとわかってるのに。わたしがこれほど辛辣な態度に出るのも、ハーディンが初めて。彼はそうされても当然だけど、自分が意地悪で無礼なことを言うのはたまらなくいやだ。

ハーディンはわたしの腕をまたつかむと、人だかりから離れて、ふたつの建物のあいだの通路に引っぱっていった。「テス、おれは……自分でも何してるのかわからない。でも、最初にキスしてきたのはきみだ。忘れたのか?」

「うん……あのときは酔っぱらってたから。それに、きのうはあなたのほうからキスしてきた」

「ああ……きみがとめなかったからな」ハーディンは言葉を切った。「無理するのはよせ」

えっ?「無理する、って?」

「おれが欲しくないふりをすることさ。それはうそだって、自分でもわかってるくせに」ハーディンが近づいてくる。

「はあ? あなたなんて欲しくない。わたしにはボーイフレンドがいるのに」もつれるように出てきた言葉のばかばかしさに、ハーディンはにやりとした。

「“きみがうんざりしてる”ボーイフレンド、だよな。認めろよ、テス。おれではなく、自分自身のために。きみはやつに飽き飽きしてる」声を低めて誘うような口調。

「彼は、おれみたいにきみを感じさせたことがあるか?」

「ええっ? あ、あるにきまってるわ」わたしはうそをついた。

「いや……ないね……そもそもきみは、触れられたことだって一度もない……おれの言う意味で、ということだ。見ればわかる」

ハーディンの言葉に、熱く灼(や)けるような感覚が全身を駆け巡る。「そんなこと、あ
なたに関係ない」後ずさりしたのに、彼が三歩ほど近づいてきた。

「きみは知らないだけだ。おれに触れられて、どれほど感じることができるか」ハーディンの言葉に息をのむ。さっきは怒鳴ったくせに、どうして彼はこんなことを言うの? そしてわたしはなぜ、それが気に入ってしまうの? 返す言葉が見つからなかった。

ハーディンの口調や、いやらしい台詞のせいで、無防備にすべてをさらけ出したような感じがする。これではまるで、キツネの罠にかかったウサギだ。

「認めなくてもいい。おれにはわかる」傲慢そのものといった声でハーディンが言う。

わたしは首を横に振ることしかできなかった。彼がにやりとするのを見て、反射的に壁に後ずさる。また一歩近づいてこられて、深く息を吸った。お願い、もうやめて。

「脈が速くなってきただろ? 口のなかもからからだ。おれのことを思うと……ほら、あそこがうずく。そうだろう、テレーサ?」

 

■きみを避けたいとは思わない

ハーディンの言うことは全部ほんとうだった。こんなふうに話しかけられると、それだけ彼が欲しくなる。誰かを苦しいほどに求めながら、いやなやつだと憎らしく思うなんておかしい。こんなふうに感じるのは体だけ。でも、彼とノアが正反対なことを思うと不思議だ。いままで、ノア以外の人間にひかれたことなどないのに。

このまま黙っていたらハーディンの勝ちになってしまう。心をもてあそばれたうえに負けるなんて、いやだ。

「あなたは間違ってる」

でも、彼はほほ笑んだ。その笑顔さえ、わたしの体を熱くする。

「おれが間違ってたことなんて一度だってない。こういうことにかけては、絶対に」

ハーディンと壁のあいだで身動きできなくなる前に、脇へ避けた。「どうしていつも、わたしがあなたの気を引くようなまねをするって言うの? こうして、あなたがわたしを追いつめてるくせに」タトゥーを入れたこのむかつく男子に対する欲望よりも、怒りのほうが勝った。

「きみのほうから誘いをかけてきたからだ。勘違いするなよ、おれだってきみと同じくらい驚いたんだからな」

「あの夜は酔っていて、いろいろあったから—言わなくてもわかってるよね? あなたが優しく接してきたから戸惑ったの。ふだんのあなたに比べたら優しかった、という意味だけど」ハーディンのそばを通り抜けて歩道の縁に座る。彼と話すのは精神的にすごく疲れる。

「それほど意地悪にしているつもりはない」大きく迫ってくるようにしながら彼が言う。でも、どこか自信なさげにも聞こえた。

「冗談言わないで。怒らせるようなことをわざわざするくせに。わたしだけじゃなく、みんなを怒らせてるけど、わたしに対してはとくにきつく当たってる」ハーディンに向かってこれほど率直に話している自分が信じられない。でも、彼が反撃してくるのも時間の問題だ。

「違うね。ほかの連中と同じように、きみにも接してるだけだ」

わたしは立ちあがった。ハーディンとまともな話ができるはずなんてない。「やっぱり時間の無駄だった!」大声で叫んで芝生のほうへ戻ろうとする。

「なあ、おれが悪かったよ。とにかく、こっちへ来いよ」

ため息が出たものの、脳より先に脚が反応して、ハーディンのすぐそばまで戻ってしまう。

彼は歩道の縁石に腰を下ろした。さっきまでわたしが座っていたところだ。「座れ」

わたしはしかたなく従った。

「すごく離れて座るんだな。おれのこと、信用してないのか?」

「信用なんかするもんですか。当たり前でしょう?」

ハーディンは顔を曇らせたものの、すぐ取り繕った。わたしに信用されてるかどうか、なぜ気にするのだろう?

「お互い近づかないようにするか、友達になるか、どっちかにしない? これから先もずっとけんかしようとは思わないから」ため息をつくと、彼はすこし近づいてきた。

そして、深呼吸してからこう言った。「おれは、きみを避けたいとは思わない」

えっ? 心臓が胸から飛び出そうになる。

 

次回、「ふたりで楽しいことをするってセットしておくんだ……」。ハーディンにしかけられたアラームから逃れられないテッサの運命は……!?

 

【参考】

アナ・トッド(2015)『AFTER 1』(小学館文庫)

 

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