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アレが原因で夫から離婚される?弁護士に聞いてみた【後編】

中田綾美

中田綾美A.Nakata

 

前回の記事では、“妻の料理が壊滅的”、“美容整形がバレた”という2つの事情で裁判上の離婚が成立するかどうかについて解説しました。

【後編】は、夜の生活に関する事情で離婚が認められるかどうかについてです。前回に引き続き、馬場・澤田法律事務所の手打寛規弁護士にお話をうかがいました。

 

■結婚前の妻の男性関係

「結婚するなら絶対処女!」という“処女厨”まではいかなくても、妻の男性経験を気にする夫は少なくありません。どんなに無頓着な人であっても、“少ないに越したことはない”というのが本音です。

では、結婚前の妻の男性関係が原因で離婚が認められるというケースはあるのでしょうか。

たとえば、(1)夫は自分が妻にとっての“初めての男”だと思い込んでいたが、実は妻の経験人数は2ケタを下らなかった(2)妻は、夫と交際する以前、夫の上司と不倫していた(3)妻は結婚前に、性産業に従事していたという3つのケースではどうでしょう?

ここで少し前回のおさらいです。民法770条1項で定められた離婚原因は、以下の5つになります。

1.配偶者に不貞な行為があったとき。

2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。

3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

このうち、“1.配偶者に不貞な行為があったとき”というのは、あくまで結婚後の事情です。結婚前の妻がどんなに淫らな行為にふけっていたとしても、夫が「不貞行為だ! 離婚しろ!」と訴えることはできません。男性にとってはかなりショックかもしれませんね。

ただ、だからといって「結婚前の話なんだから、もういいっこなしね」と妻が悠長に構えていられるわけではありません。

前回の記事でもあったように、何かのきっかけで夫婦の心が完全にすれ違ってしまい、別居に至るなど関係が破綻してしまった場合には、“5.その他婚姻を継続し難い重大な事由がある”と裁判で判断されるおそれがあるからです。

上で挙げた(1)から(3)のような事実が結婚後に発覚すれば、夫はプライドがひどく傷つきますし、また「他にも何かあるんじゃないか」「ひょっとしたら浮気するんじゃないか」など妻に対する不信感がいっぱいになるでしょう。デリケートな男性だと、EDにもつながりかねません。

そんな夫に対して、「過去は過去でしょ!」などと逆ギレしては、夫婦関係はますます悪化するばかり。そうなると、妻が「仮面夫婦でもいいから離婚は避けたい」と思ったとしても、裁判で離婚が認められる可能性が出てきます。

上でも述べたように、法律問題としては、結婚前の行為が咎められるわけではありません。ただ、それをきっかけとして夫婦関係を破綻させないためには、夫から“過去は過去”と思ってもらえるように、信頼関係を築く努力が必要です。

 

■セックスレス

最後に夫婦間で性行為のない“セックスレス”が離婚原因になるかどうか。特に、妻が一方的に夫からの求めを拒んでいるケースについて検討します。

手打先生によれば、セックスレスが離婚原因としてとりあげられる裁判例もあるとのこと。裁判所は、夫が性交不能であることを妻に隠して結婚したという事例において、以下のように述べています。

「婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性に鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意があるような特段の事情のない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないことは、原則として、婚姻を継続し難い重大な事由にあたる」

(京都地判昭和62年5月12日)

裁判所も、セックスが夫婦にとって非常に重要な要素であるということを認めているのです。ただし、単に性行為がないというだけで離婚が認められるわけではありません。性行為が夫婦の信頼関係に基づく行為であるという前提で、その信頼関係を裏切るような態様があったか否かが重要です。

そのため、“どれくらいセックスレスの期間があれば離婚成立”といった明確な基準はなく、その理由、経緯、双方の態様など個別具体的な事情で判断されます。

たとえば、夫のほうで特殊な性癖があり、そのために妻が性行為を拒んでいるという状況では、セックスレスもやむなしですよね。また、妻が健康上の問題を抱えているといった場合も同様です。

一方、そうした事情もないのに妻が拒み続けており(たとえば、「疲れている」「生理的に無理」など)、その結果、夫が妻の愛情を感じることができず、夫婦関係がギクシャクしてしてしまった場合には、離婚が認められる可能性が出てきます。

 

以上、2回にわたって、“気になるあの原因で夫からの離婚は認められるか?”について解説してきました。

最後になりますが、夫婦の間で離婚につながりかねない問題が生じた場合、早めに弁護士などの専門家に相談することをオススメします。というのも、夫婦だけでいがみ合っていると、感情論になってますます夫婦間に亀裂が入り、取り返しのつかない事態にまで陥ることが少なくないからです。

一度、第三者である弁護士に、本当に離婚原因に当たるのかどうかなど相談すると、当事者としても冷静になれるでしょう。どうか感情の赴くままに行動して、後悔することがありませんように……。

 

【参考】

馬場・澤田法律事務所(2007)『Q&A新しい離婚解決完全マニュアル』 中央経済社

【取材協力】

馬場・澤田法律事務所:手打寛規弁護士

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by:ex animø