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ダメ男こそ全て受け止めたい?女の「へタレ萌え」実態【レ・ミゼラブル/マリウス 】

吉田奈美

吉田奈美

(※この画像は『レ・ミゼラブル』公式サイトのスクリーンショットです)

『オペラ座の怪人』、『ミス・サイゴン』、『レ・ミゼラブル』。これらの作品はミュージカルオタクならずとも世界中に多くのファンを持つ世界的超名作ミュージカルとして知られていますが、この3つの作品の並びを見て、ある共通点が思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか。

それは、素晴らしい楽曲に珠玉の物語であるという共通点以外に“ミュージカル界の三大へタレ男が登場しているという点にあります。

 

ちなみにミュージカル界の三大へタレ男とは、『オペラ座の怪人』のラウル、『ミス・サイゴン』のクリス、『レ・ミゼラブル』のマリウスのことです。

ラウルは、恋人クリスティーヌを誘拐した怪人との対決で、涙で必死に命乞いを。

クリスはベトナム時代の恋人で自分の子どもを産んだキムを捨ててアメリカ人女性エレンと結婚。その後数年してキムとエレンが対峙し自分の過去を妻に知られたとき、クリスは妻・エレンに抱きつきわんわん泣き崩れます。

またマリウスは自分たちの仲間が革命運動で国のために命を賭けて戦おうとしている中、恋にうつつを抜かして女のことばかり考え、死ぬことを怖れ始めます。

 

そんな従来のヒーロー像から逸脱した『へタレ男』たちですが、彼らは劇中の女性たちからはもちろん、観客である女性たちにも「情けないなあ」「男らしくないなあ」と思われつつも、なぜか圧倒的に愛されています。

女はかっこよくて強くて男らしい男性に惹かれるのが定石かと思いきや、こんな“ヘタレ萌え”というジャンルがあるんですよね。(※1)

でもいったいなぜ、へタレ男に女性は萌えるのか、その秘密を掘り下げるべく、現在帝国劇場で上演中の『レ・ミゼラブル』(※2)の中のマリウスについて考え、その萌えのメカニズムを考えてみたいと思います。

 

目次

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■萌え要素1:女心に鈍感である

マリウスには自分を慕い尽くしてくれるエポニーヌという少女がいます。端から見るとその好意は一目瞭然なのに、マリウスはまったく気づきません。この鈍感さに観客もエポニーヌもイラ立ちつつ、そのピュアさゆえの鈍感さに萌えてしまいます。

 

■萌え要素2:鈍感ゆえに乙女心を傷つける

エポニーヌからの気持ちに気づかないだけでなく、彼女に対して実にひどいことをマリウスは悪意なくし続けます。マリウスはエポニーヌには目もくれないのに、スラム街で出会った可憐な少女・コゼット(主人公・バルジャンの養女)にひと目ぼれをします。そしてあろうことか、コゼットにもう一度会いたいと、なんと自分で探さずにエポニーヌにコゼットを見つけてくるよう頼むんです。しかもお金を渡して。

エポニーヌはそのお金を投げ捨て自分の境遇をのろいますが、愛するマリウスのために一生懸命探しに行っちゃうんです。ああ、なんてせつない。

他にも、マリウスは革命の危険な最中、コゼットへの愛をしたためたラブレターをエポニーヌに届けさせたり、かなりひどいことをします(笑)。これは何かのプレイなのか?と思うほどですが、マリウスはひたすら天然で無垢なんですね。こんなひどいことをしているのに邪気がなく可愛い、この『ダメさ』が母性本能をくすぐるのかもしれません。

 

■萌え要素3:残酷な優しさがある

ここで紹介するだけでもエポニーヌはマリウスから散々な目に遭っていますが、単に酷いことをされているだけではなく、とっても優しくもされています。

エポニーヌが危険な場所にいるときは、心から心配してその場所から追い払おうとしたり、まるで妹のように優しく頭を小突いたり。

が、その行動の裏の心理というのが“恋愛感情”ではなく、あくまでも“友情”だったり“兄弟愛”に近いものだったりするので、エポニーヌにとっては優しくされているのに苦しい、そんな複雑な感情を抱かせ、より夢中になってしまうという悪循環。この行動に作為があるのなら憎まれ役になってしまいますが、すべての行動が純粋な優しさが動機なので、愛されてしまうという得な性格です。

 

■萌え要素4:恋バカである

レ・ミゼラブルは、貧困にあえぐ19世紀フランスが舞台で、マリウスは仲間と共に自分たちの手で国を変えようと革命に参加しますが、仲間たちが命を失う覚悟で戦おうとするそんな最中に、目をキラキラさせて♪コゼット、コゼット~と恋に夢中になり、コゼットと離れたくない、死ぬのが怖いと言い始めます。はっきり言って大迷惑な行動です。

が、そんな恋バカマリウスに呆れつつも、そのまっすぐな思いに触れ、思わず応援したくなってしまう魅力があります。それはあまりにも恋しているときのマリウスが幸せそうだから。人から幸せを望まれる“愛される才能”に恵まれた人物というのが確かに存在するようです。

 

■萌え要素5:弱さを隠さない

まだ観ていない方のためにネタバレを避けますが、そんな恋バカマリウスの運命に、悲しく大きな試練が襲い掛かります。

そんなときにどうするかというと、マリウスは泣いたり弱音を吐いたり苦しんだり、ここでも素直に自分の感情を周囲にぶつけていきます。“男らしさ”というものが微塵もないのに、なぜか女性はそこに母性本能を刺激され守りたくなります(現にその悲しみから彼を救うのは女!)。

 

……と以上5つの要素を見るに、なんで自分でもこのキャラクターが好きかわからなくなるぐらいのダメっぷりでビックリしました(笑)。これはひょっとしたらM属性の女性限定の魅力かもしれませんね。

『レ・ミゼラブル』を観て、マリウスのことが好きか嫌いかでその女性の恋愛思考が見えてくるので、観劇後に「マリウスについてどう思った?」なんていう会話をするととても楽しいものです。

私の経験則上、マリウスに対しイライラしたり好きになれないという人は、S属性の女性で、彼女たちはマリウスの親友である革命家のリーダー・アンジョルラスに萌えるケースが多いようです。このアンジョルラスはリーダーシップもあり理想に散っていく革命戦士なので、従来のヒーロー像に近いといえます。ここに惚れられる女の子はダメンズ要素が少なく幸せな恋愛ができる女性かもしれません。

 

またマリウスを演じる役者によって、観るほうの感情は大きく変わります。私は大のマリウス好きですが、演者によっては「このマリウスは可愛げがないから愛せない」「行動に作為を感じてしまう」と思ってしまうことも。なのでいろんな役者でマリウスを見てみると面白いですよ。同じ脚本なのにあまりにも違いが大きいことに驚くと思います。

ちなみに私がダントツでオススメなのが、現在スペシャルキャスト回に出演中の『石川禅マリウス』。46才の役者さんですが、なんと20代の若者に見事に化けて(!)演じられています。これがまた母性本能をくすぐる素直さ、可愛さ、無垢さがあるけど、優しさゆえの残酷さがハンパないマリウスでたまりません。

 

『レ・ミゼラブル』は恋愛だけの物語ではなく、人生で誰しもが通るたくさんの出来事や感情、経験が詰まった大きな懐をもった作品ですが、今回取り上げた『恋愛』パートだけでも心をわしづかみにするパワーがあり、観客に恋する喜びや苦しみをたくさん思い出させてくれます。

最近恋する気がしない、トキメキを忘れてしまった、という人は、ぜひこの作品を見て心の渇きを癒してみてください。

恋するあのドキドキ、高まる感情が一瞬にして甦ってきます!

 

【参考】

※1. ヘタレとは (ヘタレとは) – ニコニコ大百科

※2. 帝国劇場ミュージカル『レ・ミゼラブル』公式ホームページ