【連載1:AFTERⅡ】壊れる絆「この過ちを償うことができるなら…」

以前『Menjoy!』でお届けして大好評をいただいた連載小説『AFTER』。今回はなんとその続編が登場! テッサは恋人ハーディンに、処女を賭けの対象にされていた……前作の衝撃の結末から復活愛へ!? 世界中の女性たちが熱狂した恋愛小説『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』、連載全40回スタートです。
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前作『AFTER』あらすじ

まじめで優等生だったテッサは、大学で出会った不良学生ハーディンに翻弄されるうち、心を奪われてしまう。はじめは遊びだったハーディンも、テッサの一途な想いにいつしか本気でテッサを愛するようになる。

ついに2人は結ばれ、幸せの絶頂にいたテッサ。だがそこに衝撃の真実が明かされる。ハーディンは、テッサの処女を奪えるかどうかを、仲間たちと賭けていたというのだ。しかも、処女を奪った証拠として、その夜使用されたコンドームと血に染まったシーツを仲間たちに晒していた……!

「近いうちに話すつもりだった。愛しているのは嘘じゃない」

ハーディンは言うが、裏切りを許せないテッサ。傷ついた心と2人の関係はもう修復不可能なのか……あの夜誓った愛は、偽物だったのか!?

連載小説『AFTER』目次ページ

 

プロローグ

足元のコンクリートの冷たさも、降り積もる雪も感じられない。

わかるのは、むしり取られるようにして胸に穴が空いたことだけ。ゼッドが助手席にテッサを乗せて駐車場から車を出すのを、おれはひざまずいたまま、なすすべもなく見つめていた。

こんなことになるとは思いもしなかった─自分がこんな痛みを感じるなんて。胸に突き刺さる喪失の痛み、とかいうやつだ。

どんな物や人間に対しても、これほど大切だと思ったことはなかった。誰かにそばにいてほしいとか、おれひとりだけのものにしたいと思ったこともない。ここまで強く誰かを失いたくないと思ったのも初めてだ。

彼女を失うという恐怖─まぎれもない恐怖とパニック─が待っているとは。

いや、この状況の何もかもが予想外だ。

すぐに終わる、チョロい話のはずだった。テッサと一発ヤって、賭けで独り勝ちし、ゼッドに自慢してみせる。ごくありふれた結末を迎えるはずだった。なのに、そうはならなかった。

ロングスカートばかりはいて、異常に長い“やることリスト”を作るブロンド女子がじわじわと心に入りこんできて、おれは信じられないくらい彼女を好きになっていた。バージンを奪ったという証拠を最低な“友人たち”に見せたあとにシンクで吐くまで、彼女をどれほど愛しているか、気づきもしなかった。

最低だ。とにかく、いつどんな瞬間もいやでたまらなかった。なのに、自分からはやめられなかった。

賭けには勝ったが、おれを幸せにしてくれた唯一のものを失った。しかも、彼女のおかげで自分のなかにも善いところを見つけられたのに、それさえなくしてしまった。

冷たい雪が服にまで染みこんでくるのを感じながら、誰かのせいにしたくてたまらなかった。

依存症が遺伝したのは、親父のせいだ。その親父とすぐ別れずに、こんなとんでもないこどもを作り出した母さんのせいだ。だいたい、おれに話しかけてきたテッサが悪いんだ。くそったれ、ぜんぶ、おれ以外の誰かの責任だ。

そう言いたくても、できなかった。ほかの誰でもない、このおれがやったことだ。おれが彼女をめちゃくちゃに傷つけ、ふたりが手にしていたすべてを台無しにした。

この過ちを償うことができるなら、おれはなんでもする。

テッサはいま、どこだ? おれが見つけられるところにいるのか?

 

「やつはおれたちにすべてを話したよ……何もかも」

「一カ月以上かかったのね」

わたしはすすり泣きながら、賭けをすることになった事情を説明するゼッドの話を聞いていた。吐きそうになるのを抑えようと、そっと両目を閉じる。

「ああ。ハーディンはいつも言い訳ばかりだった。もっと時間をくれ、勝ったときの取り分も下げていいと言った。とにかく変だったよ。やつは─何かを証明したいのか─賭けに勝とうと躍起になっているのかと思ったが、ようやくわかった」

ゼッドはすこし言葉を切り、わたしの表情をうかがう。

「やつはそんなことしか言わなかった。でも、おれがきみを映画に誘ったあの日、突然キレたんだ。彼はきみを寮まで送ってから、食ってかかってきた。とにかく、きみには近づくなと言ってきたんだが、おれは笑い飛ばした。やつが酔ってると思ったから」

「ハーディンは……小川でのことを話したの? あの……ほかのことも?」息を殺しながら質問したものの、憐れむようなゼッドの瞳が答えだった。「うそ、信じられない」わたしは両手で顔を覆った。

「やつはおれたちにすべてを話したよ……何もかもぜんぶ……」ゼッドがつぶやく。

わたしは黙ったままスマホの電源を切った。バーを出てからずっと、バイブ音がしていた。ハーディンには、わたしに電話してくる権利なんてない。

「新しい寮は、どこ?」

ゼッドに質問されて、キャンパス近くまで来たことに気づく。「寮には住んでない。ハーディンと……」最後まで言うのがつらかった。「つい一週間前、いっしょに住むよう説得されたの」

「まさか、うそだろ」

「ほんとよ。彼は……とにかく、あまりにも……」ハーディンの残酷さを表す言葉が見つからない。

「そんなことになってるとは知らなかった。あの……例の証拠を……おれたちに見せたら、ハーディンも毎晩違う女子とヤる生活に戻ると思っていたのに、やつはふいに姿を消したんだ。おれたちともほとんどつるまなくなった。

唯一の例外がこのあいだの夜。ドックにやってきて、きみにはバラさないようおれとジェイスに口止めした。たんまり金を出すから黙っていろとジェイスに言ったんだ」

「お金?」ハーディンはどこまで最低なの? 吐きそうになる事実が暴露されるたび、車内がどんどん狭くなっていく。

「ああ。もちろん、ジェイスは笑って取り合わず、黙っているとハーディンに約束したけど」

「あなたは?」ハーディンのぼこぼこになった手の甲とゼッドの顔を思い出して、わたしは尋ねた。

「ちょっと違う……きみにすぐ打ち明けないなら、おれが代わりに話すとハーディンには言った。彼はその案を気に入らなかったようだ、言うまでもないけど。きみの気持ちが晴れるかどうかはわからないが、やつは、きみのことをちゃんと大事に思っていたよ」

「うそ、そんなはずない。ほんとうにそう思っていたとしても、もうどうでもいい」わたしは窓に頭をもたせかけた。

いまはなにも感じられない……

ハーディンとのキスや触れ合ったこと、どの瞬間もすべて彼の仲間に筒抜けだった。わたしが体験したもっとも親密なひととき。わたしだけのものだったはずなのに、全然そうじゃなかったなんて。

「おれのアパートメントにまた来るか? 無理強いとか、変なことを考えてるんじゃなくて、ソファがあるから、きみが……事態を把握できるまで、いてもかまわない」

「ううん、ありがとう。でも、スマホを使わせてもらっていい? ランドンに電話しなくちゃ」

ゼッドがダッシュボードの上にあるスマホをあごでしゃくった。ボンファイヤーのあと、彼を振ってハーディンのところへ行かなかったら、どうなっていただろう。わたしは一瞬、ぼんやり思った。そうしていれば、こんな過ちは犯さなかったような気がする。

ランドンは二度目の呼び出し音で出て、予想どおり、すぐにおいでと言ってくれた。何があったのか話していないのに、いつも優しい人だ。彼の家の住所を知らせると、ゼッドは黙ったまま車を走らせた。

「きみをどこへ連れていっても、やつはおれを追いかけてくるだろうな」

「巻きこんでしまって申し訳ないけど、そもそもはあなたたちが始めたことなのよ」わたしは正直な気持ちを突きつけた。

ゼッドにはすこし悪いと思ってる。彼のほうがハーディンよりずっと善意の人だから。でも、心の傷があまりにもなまなましくて、そんなことを考えてはいられなかった。

「わかってる。何か必要だったら、電話してくれ」

そう言うゼッドにうなずいて車から下りた。冷たい空気に触れて息が白くなる。でも、寒さは感じない。いまは何も、感じられなかった。

ランドンは唯一の友達だけど、ハーディンのお父さんと同居している。この皮肉な巡り合わせがひどく身にしみた。

 

次回、傷付いたテッサをあたたかく迎えてくれる友人……でもそこはハーディンの家族が住む家でもあった。追ってくる彼から逃げるテッサは!?

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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