【連載2:AFTERⅡ】「もう二度とあなたとは口をきかない…!」

恋人ハーディンの酷い裏切りに深く傷付いたテッサ。彼とふたりで暮らすアパートにはいられない……友人ランドンのところに逃げ込んだテッサだが、そこはハーディンの父親が暮らす家でもあった。世界中の女性たちが熱狂した恋愛小説『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』、連載第2回。
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泣くこともできず……どこにいても追ってくる彼

「本降りになってきたね」ランドンは急いでわたしをなかへ入れてくれた。

「コートは?」とおどけて言ったものの、わたしの姿を見て仰天する。「何があったんだ? 彼に何をされた?」

ケンとカレンが一階にいないよう祈りつつ、家のなかを見回す。「そんなに一目瞭然?」わたしは目の下をこすった。

ランドンに引き寄せられ、わたしはまた目をこすった。精神的にも肉体的にもくたくたで、泣くこともできない。そんな状態はもうとっくに過ぎていた。

彼は水の入ったコップを持ってきてくれた。

「きみの部屋へ行きなよ」

笑顔を作ろうとしたものの、階段の上まで来ると、妙な思いに導かれてハーディンの部屋のドアへ向かった。それに気づいたとき、わたしを押しつぶしそうなほど大きな痛みがさらにわきあがってきたので、すぐに目をそらし、廊下を挟んで向かいの部屋に入った。

ドアを開けると、眠りながら叫ぶハーディンのもとにかけつけようとした夜を思い出し、胸のなかが焼けそうになる。これからどうしたらいいのかわからず、わたしは“自分の部屋”のベッドにおずおずと腰を下ろした。

数分後にランドンがやってきて、隣に座った。気遣いを示しながらも、近すぎない距離を保つのがいかにも彼らしい。

「話をしたい?」と親切に聞いてくれる。

わたしはうなずいた。長く込みいった話を繰り返すのは、最初に真実を知ったときよりつらいけど、ランドンに話すことで気持ちが解けて楽になった。それに、わたしが屈辱的な仕打ちを受けていたことを知らずにいた人間がひとりはいたとわかって、どこかほっとした。

ランドンは話を聞きながら、じっと動かなかった。何を考えているのかうかがいしれない。ステップブラザーのことをどう思っているのか知りたい。わたしのことも。だけど、わたしが話し終えると、彼は怒りに弾かれるようにして立ち上がった。

「信じられない! いったい、ハーディンはどうしたっていうんだ! ようやく……まともになったと思ったのに、こんな─こんなことするなんて! ひどい、めちゃくちゃじゃないか! よりによってきみに対して。なぜ、自分が持っている唯一のものを壊そうとしたんだ?」

そう言うと、ランドンはぱっと横を向いた。

わたしも気づいた。階段を駆け上がってくる足音。取り乱したように、重いブーツで階段を踏みつけてくる音だ。

 

「出ていけよ、ハーディン!」

「彼が来た!」ふたりで同時に口にする。一瞬、クローゼットのなかに隠れようかとも思った。

でも、ランドンはまじめな表情でこちらを見る。「ハーディンの顔が見たい?」
首を激しく横に振ると、彼はドアを閉めに行った。その瞬間、ハーディンの声がわたしの胸に突き刺さった。

「テッサ!」

腕をつかもうとするランドンをすり抜け、ハーディンはいきなり入ってきた。部屋の真ん中で止まったので、わたしはベッドから立ち上がった。こういうことに慣れていないランドンは呆然と立ったままだ。

「テッサ、よかった。ここにいたのか」ハーディンは息をつき、髪を両手でかき上げた。

彼の姿を目の当たりにして胸が痛くなる。わたしは顔をそらし、壁を見つめた。
「テッサ、頼むから話を聞いてくれ。頼むよ、とにかく……」

わたしは黙ったまま彼のほうへ歩いた。希望に目を輝かせて腕を差し出すハーディン。でも、そのままわたしが通りすぎると、彼のなかの希望が消えた。

そう、それでいい。

「待てよ、無視するなよ」

だけど、わたしは首を振り、ランドンの隣に立った。「だめよ─もう二度とあなたとは口をきかない!」

「そんな、うそだろ……」ハーディンが近づいてくる。

「あっちへ行って!」腕をつかまれて、わたしは叫んだ。

ランドンが割って入り、ステップブラザーの肩に腕をかける。「ハーディン、出ていけよ」

ハーディンは奥歯を噛み締めたまま、わたしたちの顔を見比べる。「ランドン、邪魔するな」

でもランドンは一歩も引かなかった。ハーディンは、わたしの目の前でステップブラザーを殴るべきかどうか考えている。

それはまずいと思ったのだろう、ハーディンは深く息をついた。「頼む……すこし、おれたちだけにしてくれないか」と冷静さを保とうとして言った。

ランドンがこちらを見る。わたしが目で訴えると、彼はハーディンに向き直った。「彼女は話したくないと言っている」

「テッサがどうしたいのか、おまえが決めつけるな!」ハーディンは叫んで壁を殴った。ひびが入り、表面が凹む。

わたしは驚いてあとずさり、また泣きそうになった。だめよ、いまはだめ。感情をなんとか抑えようと、心のなかでつぶやく。

「出ていけよ、ハーディン!」ランドンが叫ぶのと同時に、ケンとカレンが戸口に現れた。

どうしよう。やっぱり、ここには来るべきじゃなかった。

 

こんなつもりでは……再び壊れた家族の絆

「いったい、何ごとだ?」とケンが尋ねる。

誰も、何も言わない。カレンは心配そうにわたしを見つめ、ケンが質問を繰り返す。

ハーディンは父親をにらみつけた。「おれはテッサと話そうとしてるだけなのに、ランドンが余計な口出しをしてくるんだよ!」

ケンはランドンに目をやってから、わたしに視線を戻した。

「何をしたんだ、ハーディン?」心配そうな口調が……怒っているものに変わった?

「なんにもしてねえよ!くそったれ!」ハーディンはどうしようもないとばかりに両腕を挙げた。

「すべてを台無しにするようなことを彼はやらかしたんだ。そのせいで、テッサには行くところがない」とランドンが答える。

わたしも声をあげたかったけど、なんと言えばいいのかわからない。

「行くところはある、家に戻ってくればいい。テッサがいるべきところ……おれといっしょにいればいいんだ」とハーディンが言う。

「彼はこれまでずっと、テッサをもてあそんでいた─口には出せないようなひどいことをしたんだよ!」ランドンが言ってしまうと、カレンは息をのみ、駆け寄ってきた。

わたしはどうしようもなく体をすくめた。これほど自分が小さく、すべてを奪われたような感じがしたのは初めて。ケンやカレンには知られたくなかった……でも、いまとなってはどちらでも同じだ。明日になれば、ふたりともわたしの顔など見たくなくなるだろう。

「ハーディンといっしょに行きたいのかね?」

ケンの言葉が、負のスパイラルに陥ったような思いを遮る。わたしは子どもみたいに首を横に振った。

「いっしょに来るまで、おれはここを動かないからな」ハーディンは言い放ち、そのままこちらへ近づいてこようとしたけれど、わたしは後ずさりしながら飛びのいた。

「おまえは出ていかなければならない、ハーディン」

ケンはみなを驚かせた。

「はあ?」ハーディンの顔色がどす黒いほどの赤に変わる。まさに、激怒しているとしか言いようのない表情。

「この家に来てやってるだけでも、あんたにとってはじゅうぶんありがたいことだろうに─実の息子に出ていけって言うのか?」

「おまえとの関係が改善しつつあるのは喜ばしいことだが、今夜はもう帰ってくれ」

ハーディンは両手を空に振り上げた。「ふざけんな! あんたにとって、テッサがなんだっていうんだよ?」

ケンはわたしのほうをちらと見てから、息子に向き直った。

「おまえが彼女に何をしたのかは知らない。だがそれは、おまえの人生に起こった唯一の善きものを失っても惜しくないことだったんだろうな」そして頭を垂れた。

ケンの言葉がショックだったのか、それとも限度に達した怒りがあふれてしまったのか、ハーディンは身じろぎもせずにわたしを見てから、部屋を出ていった。ひるむことなく階段を下りていく足音を、みな黙ったまま聞いていた。

玄関ドアが叩きつけられる音が、静まり返った家を切り裂く。わたしはしゃくり上げながらケンのほうを向いた。「ほんとうにごめんなさい。もう、出ていきます。こんなつもりでは決してなかったのに」

「いや、好きなだけいてくれていいんだよ。きみのことはいつだって歓迎する」ケンは、カレンとともにわたしをハグしてくれた。

「あなたたち親子のあいだに割って入るつもりはなかったんです」ケンが実の息子を追い出すことになってしまったのが、ほんとうに申し訳ない。

カレンはわたしの手を取り、握ってくれた。ケンは失望ともどかしさに疲れたような顔でこちらを見ている。

「テッサ、わたしはハーディンを大事に思っている。だが、きみがいなかったら、そもそも親子としての交流もなかっただろう。それは、カレンもわたしもよくわかっているよ」

 

次回、ハーディンの家族と友人ランドンのあたたかさを感じながら眠るテッサ。悲しみに沈んでいても朝はやってきて……。

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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