【連載6:AFTERⅡ】「まだ彼を信じたい!」なんて思う私…どうかしてる

実家から、2人で暮らしたアパートに戻ったテッサ。しかしそこには2人の思い出が詰まりすぎていて……。押しつぶされそうになるのをこらえながら出ていく支度をしていると、そこに彼が戻ってきた。なんと綺麗な女の子を連れて……!? 『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』好評連載第6回。
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「俺のことをそんなふうに思ってるのか」

「気持ちの切り替えが早いのね」と、玄関ドアのほうをあごでしゃくって見せる。

「はあ?」ハーディンはすこしして、黒髪の彼女を思い出したようだ。「ただの同僚だ。生まれたばかりの娘とともに、夫が階下で待ってる。新居を探してるから、ここが……間取りを彼女が見たがったんだ」

「あなた、引っ越すの?」

「いや、きみがここにいるなら、引っ越さない。でも、おれひとりでここにいる意味はない。賃貸契約の内容をもう一度確認してみる」

ちょっとした安堵感が広がる。でもすぐに、わたしのなかの神経質な部分が気づいた。ハーディンがあの黒髪の彼女と寝ていないからといって、ほかの誰かとそのうちベッドをともにしないとは限らない。

わたしは、ハーディンがここから引っ越すと話したときの胸の痛みを無視した。彼がそうするときにはもう、わたしだってここにいないのに。

「おれたちのアパートメントに、誰かほかの女を連れてくると思ってるのか? まだ二日しか経っていないのに─そんなふうにおれのことを?」

よくもそんなことが言えたものね。「そうよ! 当たり前じゃないの─違う?」

憎悪に満ちた表情で答えると、ハーディンの表情に痛みが走ったものの、打ちのめされたようにため息をもらした。「ゆうべはどこに泊まった? 親父の家に行ったけど、きみはいなかった」

「母のところよ」

「ああ」ハーディンは両手を見下ろした。「お母さんとうまくいってるのか?」

わたしは彼の目を見据えた。いまさら、そんなふうにぬけぬけと言うなんて。「もう、あなたには関係ないことだから」

ハーディンは両手をこちらに伸ばしたものの、すぐに止めた。「きみのことが恋しくてたまらない、テッサ」

また息が止まりそうになったけど、彼がいつも自分のいいように物事をねじまげるのを思い出して目をそらした。「ええ、そうでしょうとも」

感情がぐちゃぐちゃになっている。でも、これ以上、ハーディンの前で取り乱さないよう気を引き締めた。

「ほんとうだ、テッサ。自分がやらかしたのはわかってる─でも、おれはきみを愛してる。きみが必要なんだ」

「いいかげんにして、ハーディン。時間とエネルギーの無駄よ。もうこれ以上、わたしを欺くのは無理だから。あなたは欲しかったものを手に入れた。なぜ、ここでやめようとしないの?」

「そんなことはできないからだ」ハーディンに手を握られそうになったけど、わたしは体をよじって逃れた。「きみを愛してる。もう一度やり直すチャンスをくれよ、おれにはきみが必要なんだ、テッサ。必要なんだよ。きみだって、おれが─」

「やめて、わたしにはあなたなんて必要ない。あなたが現れる前だって、わたしはちゃんと生きてた」

「“ちゃんと”っていうのは、幸せとは違う」

「幸せ、ですって? なんなのよ、わたしがいまは幸せだっていうの?」自分のおかげで幸せになれたと言うなんて、ハーディンの図々しさにもほどがある。

でも、たしかに彼はわたしを幸せにしてくれた。すごく幸せなときもあった。

「そこにただ座って、おれがきみを愛してるのを信じないなんて言うな」

「だって、そうだもの。あなたにとっては、すべてが駆け引きだったくせに。わたしはあなたと恋に落ちたのに、あなたはわたしを利用していただけだった」

みるみるうちにハーディンの瞳に涙が浮かぶ。「きみを愛してるってことを証明させてくれよ。おれはなんでもする、テッサ。どんなことでも」

「証明なんてもう結構よ、ハーディン。わたしがいま、ここに座ってるのは、先に進むためにはあなたの言い分を聞かないといけないから。理由はそれだけよ」

「きみには先に進んでなんてほしくない」

いら立ちにため息が出る。「あなたがどうしたいかなんて関係ないの! わたしをあんなふうに傷つけたくせに!」

ハーディンはひどくかすれた声でつぶやいた。「おれを絶対ひとりにはしない、ってきみは言ったのに」

 

まだ彼を信じようとしてる……

こんな状態の彼といると、自分に自信がもてなくなる。彼の苦悩に支配され、こちらの理性が吹っ飛んでしまう。「理由もなしにあなたをひとりにはしない、って言ったのよ。自分のしたことを思い出してよ」

考えてみれば、わたしに捨てられることをハーディンがずっと心配していたのも当然だ。わたしのために善い人間になれるかどうか彼が自分を疑っているせいだと思っていたけど、ぜんぜん違った。あまりに違っていて笑えるぐらい。

ハーディンは、真実を知ったらわたしが逃げ出すとわかっていたのだ。いまだって、ここにいてはいけないはずだ。幼いときにつらい思いをしたという話を信じていたけど、もしかしたら、それもうそなのかもしれない。ハーディンの言うことに真実なんてない。

「もう、こんなこと続けられない。あなたのことを信じていたのよ、ハーディン、心の底から─あなたを信じて心を預けた。愛していたのに、ずっとあなたに利用されていた。

わたしがどんな気持ちになったかわかる? 周りの人間が全員、陰でわたしをばかにして笑っていた。いちばん信用していたあなたでさえも」

「わかってる、テッサ、やめてくれ。おれがどんなに悪いと思ってるか、言葉にできないぐらいだ。そもそも、何を考えて賭けを持ち出したのか、自分でもわからない。面倒のない、簡単なことだと思った……」

ハーディンは両手を震わせながら言い訳をした。

「きみがおれと寝たら、それで終わりだと思ってた。でも、きみはとんでもなく強情で……すごく興味を惹かれた。気づくと、おれはいつもきみのことを考えてた。部屋にひとり座り、どうしたらきみに会えるか、策をいろいろ練った。怒らせて口げんかするだけでもよかった。

小川に行ったあの日からもう、おれのなかでは賭けじゃなくなっていたけど、それを認めるわけにはいかなかった。自分の評判を気にして、ひそかに葛藤していたんだ─ひどい話だよな、でも、きみにうそはつきたくない。

きみとしたことを連中に話したときは、ほんとうのことを話さなかった……最初のころでさえ、きみにそんな仕打ちをすることはできなかった。適当な作り話をしたら、やつらは信じたんだ」

わたしの目から涙がこぼれ落ちる。ハーディンはそれを拭こうと手を伸ばした。すぐにはよけきれず、彼の手が触れたところが焼けつくように熱くなる。わたしは、その手のひらに顔を預けないよう必死になった。

「きみのこんな姿を見るのはいやだ」ハーディンがつぶやく。

わたしは涙を抑えたくて、閉じた目をまた開けた。黙ったままでいると、彼が話を続けた。

「うそじゃない、ほんとだ。ネイトとローガンに小川でのことを話し始めたとき、いら立ちというか嫉妬心がわいてきた。おれがきみにしたこと、おれがきみをどんなに感じさせたか、それをやつらも知ることになると思っただけで……だから、きみがおれに……いや、そこは適当な話をでっちあげた」

わたしたちが小川で何をしたのか、ハーディンが彼らに真実を話さずにうそをついたと知っても、たいして違いはない。でも、ほんとうにあったことをリアルに知っているのはわたしとハーディンだけだと思うと、なぜか、すこしだけほっとした。

だけど、それだけじゃだめだ。いまもハーディンはうそをついているかもしれない─ぜんぜんわからない─のに、こうして彼を信じようとしている。わたし、いったいどうしたっていうの?

 

次回、彼への愛と憎しみの間で苦悩するテッサ……「それでもあなたを許すことはできない」彼女の言葉はハーディンを突き放す!?

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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