【連載8:AFTERⅡ】行き場をなくして…辿り着いた場所で出会ったのは

やっぱり彼を愛してる。でも許すことはできない。うそから始まった関係など、はじめからうまくいくはずがなかったのだ。ハーディンのキスに心も身体も預けてしまいたくなる気持ちを振り切って、テッサは再びハーディンを突き放し、アパートを出た……。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第7回。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存

前回はコチラ

行き場をなくして……まるで小説の主人公

車に戻っても、思ったほど涙は出なかった。運転席に座り、ぼんやり窓の外を眺める。フロントガラスに張りついた雪がわたしを閉じこめていく。車のまわりで吹き荒れる風が雪を舞い上げ、わたしを匿ってくれる。ガラスを覆う雪がひとひら増えるたび、厳しい現実とわたしを隔てるものが厚くなっていく。

わたしがアパートメントにいるあいだにハーディンがやってくるなんて。彼に会うとは思ってもみなかった。

つらかったけど、得るものがなかったわけじゃない。すくなくとも、この救いようのない状況から前を向いて進もうという気持ちになれた。

わたしを愛しているというハーディンの言葉を信じたいけれど、こんな目に遭っているのは彼を信じたからだ。わたしをもう思いどおりにはできないとわかったから、ハーディンはあんなことを言っているのよ。

ほんとうにわたしを愛しているのだとして、それで何か変わる? 彼にされたことをなかったことにはできないし、わたしたちがしたことをみんなの前で吹聴したり、わたしにうそをついたことだって帳消しにはできない。

あのアパートメントをひとりで借りられたら、ハーディンを追い出したのに。寮に戻って新しいルームメイトとまた一からやり直すのはいやだ。共同のシャワーなんて耐えられない。

なぜ、すべての始まりがあのうそだったの? もっと違う出会いかたをしていたら、いまごろはあのアパートメントでハーディンとふたり、ソファで笑ったり、寝室でキスしていたりできたかもしれないのに。現実はこうして車のなかでひとりきり、どこにも行くところがない。

ようやく車を走らせるころには、手がかじかんでいた。同じホームレスになるなら、夏のほうがましだったわ。

なんだかキャサリンになったような気分。でも、いつもの『嵐が丘』のキャサリンじゃなくて、『ノーサンガー・アビー』に出てくるキャサリンのほうがふさわしい。

彼女は衝撃を受けて、ひとりで長い旅をすることを強いられる。ばつの悪い思いをしてノーサンガー館を追い出された末に七十マイルの長旅をするわけではないけど、わたしには彼女の心の痛みがよくわかる。

でも、この場合、ハーディンはどの登場人物にたとえられるだろうか。文学に造詣が深く、機知に富んでいて頭がいいところはヘンリーに似ているけど、ヘンリーはハーディンなんかよりずっと思いやりがある。傲慢でぶしつけなところは、ジョンのほうにも似ている。

行くあてもなく街を走るうち、認めたくないけど、ハーディンの言葉に衝撃を受けている自分に気づいた。出ていくなと懇願されて、壊れたものが元どおりになりそうになった。

もっとも、すぐにまたバラバラになっただけだったけど。だって、わたしがアパートメントを出てから、ハーディンは電話もかけてこないしメッセージも送ってこない。

 

辿り着いた場所は

どうにかキャンパスまで車を走らせ、冬休み前の期末試験の最後の科目を受けた。

試験のあいだは、自分の身に起こったことも他人事のように思えた。わたしがどんなにつらい思いをしているか、誰も気づいていないなんて。だけど、作り笑いとちょっとした世間話で、胸が張り裂けそうな痛みも隠すことができるのだろう。たぶん。

母に電話して、寮に戻るという話がどうなったか確認したものの、『ついてない』とかなんとか言われるばかりなので、すぐに電話を切った。

あてもなく車を走らせると、いつの間にかヴァンス社から一ブロックのところまで来ていた。

すでに夕方の五時。ランドンの好意に甘えて、またケンの屋敷に泊めてもらうのはいやだ。彼は気にしないだろうけど、ハーディンの家族を巻きこむのはよくない。それに正直言って、あの家には思い出がありすぎて耐えられない。

わたしはモーテルが立ち並ぶ通りを走りながら、見た目のよさそうなところの駐車場に車をいれた。モーテルに泊まったことなんて一度もないけど、ほかに行くところがあるわけでもない。

受付カウンターに座る背の低い男性は愛想よくほほ笑みながら、運転免許証の提示を求めてきた。数分後にはキーカードとWi‒Fiの暗証番号を書いた紙を渡された。思っていたよりずっと簡単に部屋がとれた─すこし高いけど、安いところで危険な思いをしたくはない。

「そこの歩道の先を左に曲がったところですよ」受付の男性は笑顔で言った。

わたしは礼を言ってから猛烈な寒さのなかに戻り、部屋のすぐ隣に車を停めた。こうすれば、バッグを持って移動せずにすむ。

あの薄情で自分勝手な男子のせいで、こんなところに来るはめになった。身の回りのものを大慌てでぜんぶバッグに詰めて、ひとりでモーテルの部屋で過ごすなんて。いつもきっちり計画を立てて行動していたのに、頼る人もいない人間に成り下がってしまった。

バッグをいくつか持ちながら、車をロックする。隣のBMWに比べたら、廃棄処分寸前にしか見えない。

ただでさえこれ以上ないくらい最悪な一日だったのに、手の力が抜けて、雪に覆われた歩道にバッグを落としてしまった。服や本が何冊か、びしょびしょの雪のうえに落ちる。

空いているほうの手であわてて拾い上げたものの、落ちたのはどの本だろうか─わたしだけじゃなく、お気に入りの一冊まで汚されるのは耐えられない。すくなくとも、きょうはいやだ。

「ああ、手伝いましょうか」男性の声とともに手が差し出された。

「テッサ?」

びくっとしながら見上げると、心配そうな表情が浮かぶ青い瞳。

「トレヴァー?」

わかっていたけど、確かめるように言ってみる。わたしはまっすぐ立ち、あたりを見回した。「こんなところで何してるの?」

 

次回、モーテルで偶然出会った同僚トレヴァー。テッサは彼の優しさに少しの間心を和ませ……。

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

AFTER season2 壊れる絆 1 [ アナ・トッド ]
価格:702円(税込、送料無料) (2016/11/10時点)