【連載10:AFTERⅡ】蘇る悪夢…彼女がいなければ眠れない

恋人ハーディンの元を離れ、ひとりモーテル暮らしを始めたテッサ。そこで偶然出会った同僚トレヴァーと世間話をするうち、優しくされること、心を通わせることに癒しを感じる。一方ハーディンは、テッサを失い自暴自棄ともいえる荒れ方をみせていた……。『AFTER sersonⅡ 壊れる絆』 連載第10回。
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「彼女はここには来ない」……こんな辛さがあるなんて

親父はとんでもなく間抜けな面をしていた。有無を言わせぬ権威に満ちたふりをするときは、いつもこうだ。いまも、腕組みをしたまま玄関口に突っ立っている。

「彼女はここには来ない─おまえに見つかるとわかってるからな」

おれは、親父の歯をへし折りたくなるのを必死で抑えた。髪をかきあげる手の甲がずきずきうずく。今回はいつもより傷が深い。石壁を殴ったせいで思った以上に打撃を食らったが、胸のうちの痛みに比べればなんでもない。

こんな種類のつらさがあるなんて、初めて知った。自分の体を傷つける痛みなんかよりずっと、ずっとひどい。

「ハーディン、おまえは彼女をひとりにしておくべきだ」

「ひとりにしておく? そんなの必要ない! テッサは家に帰ってくるべきなんだよ!」おれが怒鳴ると、隣家のばあさんがこっちを見た。おれは彼女に向かって両手を挙げてやった。

「お隣さんに無礼なまねはやめてくれないか」と親父が言う。

「じゃあ、他人の家のことに首をつっこむなって、連中に言っておけよ!」白髪の老婆にもきっと聞こえたはずだ。

「じゃあな、ハーディン」親父はため息とともにドアを閉めた。

「くそったれ!」ポーチを何度か行ったり来たりした末に、おれは車に戻った。

いったい、テッサはどこにいる?

頭にきておかしくなりそうなのと同時に、彼女のことが心配でたまらない。ひとりぼっちなのか、それとも不安におびえている?

まさか、そんなはずはない。きっと、おれを大嫌いだと思う理由をひとつずつあげている。それどころか、紙に書いているに決まってる。彼女のなんでも自分の思いどおりにしたがるところや、くだらないリストにはいらいらさせられた。

でもいまは、テッサがどうでもいいことをリストアップして書きなぐるところを見たい。ふっくらした下唇を噛みながら集中する様子、あるいは、かわいい顔をしかめて怒るところをもう一度だけでもいいから見られるなら、おれはなんだってするのに。

でも、ノアや母親のところへ彼女が戻った以上、その可能性も吹き飛んだ。おれより彼のほうが合っていると気づかされたら、テッサはまた、やつのものになるに決まってる。

また電話をかけたが、呼び出し音が十二回鳴ると自動的に留守電サービスに変わった。

くそったれ、おれはどうしようもないばか野郎だ。思いつくかぎりの図書館や書店を回って一時間も車を走らせたあと、アパートメントに戻ることにした。もしかしたら、彼女が現れる、きっと現れる……いや、そんなことがあるはずないのは、おれにだってわかってる。

でも、もしほんとうに彼女が姿を見せたら? とんでもなく散らかしたままなのを片づけなくちゃならない。それに、壁に投げて壊した皿を買い直さなくては。

 

繰り返す悪夢……彼女が隣にいなければ

男の怒鳴る声が鳴り響き、全身が震える。「どこにいる、スコット?」

「やつがバーを出ていくのを見たぞ。ここにいるはずだ」と別の男の声。

ベッドから這い出ると、床がひやりと冷たい。最初、父さんと仲間の声かと思ったが、違うようだ。

「出てこい、どこにいるか知らんが、出てこいよ!」聞いたこともないような低い声が響き、物が壊される音がした。

「ここにはいないわ」階段の下まで下りると、母さんの声がした。そこにいたのは母さんと、男が四人。

「おやおや、誰が出てきたかと思えば」背の高い男が言う。「スコットにこんな美人の奥さんがいたとはな」やつは母さんの腕をつかみ、ソファから引きずり下ろした。

母さんはしきりにシャツの前をかき合わせた。「ほんとよ……主人はここにはいません。あなたたちにお金を借りているなら、有り金ぜんぶ出しますから。家のなかのものなんでも持っていってください、テレビとか……」

だが、男は母さんの言葉を鼻で笑った。「テレビだと? そんなの欲しくもない」

母さんは男の腕から逃れようと必死になった。おれが昔つかまえた魚みたいだった。「宝石だってあります─多くはないけど、でも、お願いですから─」

「つべこべ言うな!」別の男が母さんを殴った。

「母さん!」おれは居間へ走っていった。

「ハーディン……二階へ行きなさい!」母さんは叫んだけど、おれは悪いやつらのなかに母さんをひとり置いていくつもりはなかった。

「とっとと失せろ、このガキ」そう言って押しのけられたので、おれは倒れて尻をひどく打った。「見ろよ、あんたの旦那にこういうことされたんだよ」男は自分の頭を指差した。毛のない頭から血がどくどく出ている。「やつがここにいないなら、おれたちの狙いはあんただけだ」

そう言ってにやりとする男を、母さんは両足で蹴り始めた。「ハーディン、いい子だから二階へ行きなさい……はやく!」

待てよ、なんで母さんはおれに怒ってるんだ?

「ガキのくせに、見たいんだとよ」頭にけがをした男はそう言って、母さんをソファに押しやった。

おれはぱっと目を覚まし、体を起こした。

なんてことだ。

彼らは毎晩やってきた。日ごとにどんどんひどくなる。やつらが来ないのに慣れて、ようやく眠れるようになった。すべてはテッサのおかげだったのに。

またしてもこのざまだ。明け方の四時、ぼこぼこになった手の甲からにじむ血に染まったシーツに包まれてひとり、悪夢のせいで頭が割れそうに痛い。

おれは目を閉じて、テッサがここにいると必死に思いこもうとした。そうすれば、そのうち眠りが訪れるだろう。

 

次回、悲しみにくれるハーディン。一方モーテル暮らしを始めたテッサは、新しい環境の中でなんとか立ち直ろうとしていた……。

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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