【連載13:AFTERⅡ】また口論…あなたがぜんぶ台無しにしたのよ!

絶対に許さないという強い悲しみと、ハーディンに会いたい、彼を許したいという気持ち。両極のふたつの間で揺れ動きながら、テッサは新しい毎日を踏み出す。仕事に打ち込んだことで、少しの間、辛さも忘れられていたというのに……なんとハーディンが職場にまで押しかけてきて!? 同僚トレヴァーも巻き込んで事態は悪化する一方だが……。
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「おれがいなくて寂しいはずだ」ですって……!?

「きみがモーテルに泊まってるなんて信じられない」ハーディンは片手で髪をかきあげた。

「そうね……わたしもよ」

「アパートメントにいればいい。おれはフラタニティハウスにでも行くから」

「だめよ」それはあり得ない。

「頼むから、おれを困らせるなよ」ハーディンは額に手を当てた。

「困らせる? 冗談言わないで! いまだって、あなたと話なんかしてちゃいけないのに!」

「落ち着けよ。きみの車、どうしたんだ? それに、なんであの男がモーテルに泊まってるんだよ?」

「車がどうなってるのかなんて知らない」わたしは不平をこぼした。トレヴァーのことは答えなかった。ハーディンには関係ないことだ。

「車、おれが見てやるよ」

「だめ、修理の人を呼ぶから。とにかく帰って」

「モーテルまでついていく」ハーディンは道路のほうをあごでしゃくった。

「とにかく、やめてくれない?」わたしがうなると、彼はあきれたような顔をしてみせた。「また、いつもの駆け引きでもしてるつもり? どこまでわたしを追い詰められるか、試してるわけ?」

実際に押されたかのように、ハーディンは一歩下がった。トレヴァーの車はまだ走り出さずに、わたしを待っている。

「違う、おれはそんなことしてない。いろいろきみにしてやったことを見てもまだ、そんなふうに思うのか?」

「そのとおり。まさにあなたにされたことのせいで、こう思うようになったのよ」ハーディンの言い回しに、声を出して笑いそうになる。

「おれはきみと話がしたいだけだ。話し合えば、きっと解決できる」

彼はそう言うけど、最初からわたしの出方に合わせて駆け引きを楽しんできた。何が本当なのか、もうぜんぜんわからない。

「きみも、おれがいなくてさみしいはずだ」ハーディンは自分の車に寄りかかった。その言葉にわたしははっとした。なんて傲慢なの。

「それが聞きたかったの? あなたがいなくてさみしい、って言ってほしかった? もちろんさみしいわよ、でもね、わたしが恋しいのはあなたじゃない。あなただと思っていた幻が恋しいのよ。ほんとうの姿がわかったからには、あなたにはもう関わりたくない!」

「きみはずっと、おれのほんとうの姿を知っていたじゃないか! おれはずっとおれのままだった、知ってるくせに!」

ハーディンが怒鳴り返してくる。どうして、わたしたちは声を張り上げずには話せないの? わかってる、彼がわたしをいらいらさせるからだ。

「違う、そんなの知らないわ。もし知っていたら、あんな……」

ハーディンを許したいと認めてしまう前に、言葉を切る。わたしがしたいことと、しなくてはならないことはまったく異なる別のものだ。

「なんだよ?」とハーディンが尋ねてくる。そうやって、わたしに無理やり話させようとするに決まってる。

「なんでもない、もう帰って」

 

彼も傷付いていたとしても……自業自得よ!

「テス、この数日、おれがどんなだったか知らないだろう? 眠れなくて、きみなしだと、まるでだめなんだ。おれたちにはまだやり直す機会があると─」

ハーディンが言い終える前にわたしは彼を押しとどめた。

「きみにとってはどうだったんだ?」そんなことを聞くなんて、彼はどこまで自分勝手になれるの?

「この数日、わたしがどうしていたかって聞きたいの? ほんの数時間のうちに人生がすっかりめちゃくちゃにされたらどんな気分になるか、想像すればいい! ひとりの人間を愛してすべてを与えたのに、それが全部駆け引き、くだらない賭けにされていたらどう思う? どんな気持ちがすると思う?」

わたしは両手を振り回しながらハーディンに詰め寄った。

「わたしのことなどなんとも思っていない人間のせいで、母との関係を失ったのよ! モーテルなんかにひとりで泊まる気持ちを考えてよ! 踏ん切りをつけて先へ進もうとしてるのに、こうしてあなたがどこにでも現れるなんて、どんな気持ちがすると思う? あなたには引きどきがわからないんだわ!」

ハーディンが黙ったままだったので、わたしは続けた。厳しく当たりすぎているかもしれないけど、彼は最悪の形でわたしを裏切ったのだ。自業自得だ。

「だから、つらいとか眠れないとか泣き言を言うのはやめて。だって、ぜんぶあなたが自分でやったことが返ってきてるんだから! あなたがぜんぶ台無しにしたのよ! いつだってそうじゃないの。

聞いてる? あなたをかわいそうだなんて思わない……いえ、違うわね。かわいそうだとは思うけど、それは、あなたがこれからも幸せになることはないから。

あなたは死ぬまでずっとひとりで過ごすのよ、それは気の毒だと思うわ。でもわたしは過去に区切りをつける。わたしをきちんと扱ってくれるすてきな男性と出会って結婚し、こどもを産む。わたし、幸せになるわ」

長々とまくし立てたせいで息が切れた。ハーディンは目の縁を赤くし、口を開けたままこちらを見ている。

「何が最悪か、わかる? わたしを破滅させるとずっと前にあなたに警告されていたのに、それを聞かなかったことよ」泣くまいと必死になったけど、だめだった。涙が無情にもほほに流れ落ち、マスカラが落ちて目が痛くなる。

「おれ……ごめん。もう行くよ」ハーディンは低い声でつぶやいた。どうしようもなく、心から打ちひしがれている。そんな姿を見たかったのに、思っていたほどわたしの気は晴れなかった。

もっと早い段階でほんとうのことを話してくれていたら、たとえベッドをともにしたあとでも、ハーディンを許していたかもしれない。

でも、彼はそれを隠していたばかりか、周りの連中にお金で口止めし、アパートメントの賃貸契約をいっしょにすることでわたしを閉じこめようとした。

初めて誰かと体ごと愛し合ったときは二度と忘れられない経験になるはずだったのに、ハーディンはわたしからそれを奪い、台無しにしたのだ。

トレヴァーの車に急ぎ飛び乗った。エアコンの温風が顔を撫で、熱い涙を吹き飛ばす。トレヴァーは何も聞かずにいてくれた。無言の優しさに感謝しながら、わたしはモーテルまで送ってもらった。

そろそろ日も沈もうというころ、面倒だったけど、熱いシャワーを浴びた。後ずさりながら離れていき、車にひとり乗りこんでいったハーディンの表情が脳裏を離れない。目を閉じるたび、彼の顔が頭に浮かぶ。

ハーディンと別れてから、スマホは一度も鳴らなかった。ふたりで話し合えばなんとかできる、ふたりの違いや彼がすぐにかっとなることも……いえ、ふたりともすぐに癇癪を起こすのもなんとか克服できる。わたしは愚かにもそう思っていた。

でも……どうやったら眠れるかもわからなかったのに、わたしはいつの間にか眠りに落ちていた。

 

次回、冷たい言葉で突き放したことを、後悔はしていない。テッサはシアトル行きに胸を躍らせる……。

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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