【連載19:AFTERⅡ】やだ…クラブで会ったばかりの男とキス!?

ナイトクラブで慣れない夜遊びを楽しむテッサ。彼のことなど忘れて楽しく踊れると思っても、ふと目にしたスマートフォンに彼からのメッセージがなかったことを苛立たしく思ってしまう。アルコールの勢いに任せて電話をかけると、慌てたハーディンの声が……。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第19回。
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やっぱり最低……もっと飲まなくちゃ!

「どうして今日は電話してくれなかったの?」

「えっ?」ハーディンはすっかり面食らっているような声をだした。

「今日は、わたしに電話しようとも思わなかったのね」

「電話してほしくないかと思ったんだ」

「それはそうだけど、でも」

「じゃあ、明日、電話するよ」

「まだ切らないで」

「切らないよ……ただ、明日は電話するって言っただけだ。きみが出てくれなくてもかまわない」

ハーディンの言葉に胸が止まりそうになるけど、わたしは感情を表に出さないようにした。「そう、わかった」

「で、どこにいるのか教えてくれるのか?」

「だめ」

「トレヴァーがいるのか?」ハーディンの口調は真剣だった。

「うん、でもキムもいるし……クリスチャンも」なぜかわからないけど、わたしは言い訳をした。

「ふん、そういうことか。きみを会議に連れていってくたくたにさせ、おしゃれなクラブに連れていく」ハーディンが声を荒らげる。「いますぐホテルに戻れ。きみはアルコールに慣れてないから意識を失う、そこでトレヴァーが─」

彼が言い終える前にわたしは電話を切った。ハーディンは自分が何様だと思ってるの? 酔っ払っていようがなんだろうが、わたしから電話があっただけでもラッキーと思うべきなのに。彼のせいでしらけちゃった。もう、最低。

もう一杯、飲まなくちゃ。

スマホのバイブ音が何度もしたけど、そのたびに“無視”ボタンを押した。これでもくらえ、ハーディンめ!

VIPルームへなんとか戻り、ウェイトレスにまた、お酒を注文する。

「だいじょうぶ?」とキンバリーに聞かれた。「なんだか頭にきてるみたい」

「ううん、だいじょうぶ!」わたしはうそをつき、運ばれてきたドリンクをすぐ飲み干した。

ハーディンはとんでもない最低野郎。別れたのは彼のせいなのに、電話してあげたわたしに向かって怒鳴るなんて、いい度胸してる。あんなことしなければ、彼はいまもわたしの横にいられた。なのに、ここにいるのはトレヴァー。すごく優しくて、すごくハンサムなトレヴァーだ。

「何?」見つめられているのに気づいたのか、トレヴァーがにっこりした。

わたしは笑いながら目をそらした。「なんでもない」

もう一杯飲んで、明日も有意義な一日になるとみんなで話したあと、わたしは立ち上がった。「また踊ってきます!」

トレヴァーは何か言いたげな顔をした。いっしょにフロアへ行くと言おうとしたのかもしれないけれど、ほほを赤くしたまま黙っている。キンバリーはもうたくさんとばかりに手を振る。

わたしはひとりでもぜんぜんかまわなかった。ダンスフロアの真ん中までなんとか進んで、体を動かす。ひどい踊りだっただろうけど、音楽を楽しみながら、すべてを─酔っ払ってハーディンに電話したこととか─忘れてしまうのはいい気分だった。

 

彼にキスして、ハーディンを忘れなさい……

ある曲のなかばほどで、背の高い誰かがわたしの後ろにいるのに気づいた。すごく近い。振り向くと、ダークなジーンズと白いシャツを着たなかなかハンサムな男子がいた。茶色の髪を短く刈りこみ、すてきな笑顔を見せている。といってもハーディンには及ばないけど。そんな人がいるわけがない。

ハーディンのことばかり考えるのはやめて。自分に言い聞かせていると、その男子は両手をわたしの腰に添えて、耳元でささやいた。「いっしょに踊っていいかな?」

「えっと……もちろん」アルコールの影響か、気づくと勝手に返事をしていた。

「きみ、すごくきれいだね」彼はわたしの体を自分のほうに向かせて、距離を詰めてきた。両手で背中をぐっと押されて、わたしは目を閉じた。ここにいるのはわたしじゃない。クラブで見知らぬ男と踊っているなんて。

つぎはもっとスローなビートでセクシーな曲だった。わたしは腰をゆっくり動かした。向かい合わせになると、彼はわたしの手を唇に持っていってキスをした。

目が合ったつぎの瞬間、彼は舌をわたしの口に差し入れてきた。なじみのない味わいに吐きそうになり、押しのけろと心が叫ぶのに、脳はまったく違うメッセージを発していた。彼にキスして、ハーディンを忘れなさい。キスするのよ。

わたしは胸がむかむかするのを無視しながら、目を閉じて舌を彼の舌に絡ませた。大学に入ってから三カ月で、それまでの人生でキスした以上の数の男子にキスをした。彼はわたしのお尻に両手を走らせ、さらにその下まで伸ばしてくる。

「ぼくのところに来ないか?」唇が離れると、彼が言った。

「えっ?」ちゃんと聞こえていたけど、質問されたのをなかったことにしたくて、わざと聞き返す。

「ぼくのところだよ。さあ、行こう」彼もろれつが回っていない。

「あの……あんまりいい考えじゃないわ」

「いい考えだよ」彼は声をあげて笑った。さまざまな色合いのライトが彼の顔を照らし出すと、ひどく奇妙な感じに見えて、さっきよりもずっと怖くなってきた。

「なんで、わたしがいっしょにあなたのところへ行くなんて思うの? 赤の他人なのに!」わたしは音楽に負けじと叫んだ。

「だって、いかにもエロい感じでぼくの体にべたべたしてきたからさ。嫌がってるふりはやめろよ」彼は怒ってるふうではなく、何をいまさらというように言った。

大声をあげるか、股間に蹴りをいれるかしようとする前に、落ち着いて考えようとした。腰を動かしながら彼といっしょに踊り、キスをしただけ。彼がさらにもっと求めてくるのは当然だ。いったい、どうしちゃったんだろう? クラブで会ったばかりの男にいちゃつくなんて─こんなの、わたしじゃない。

「ごめんなさい、でも、だめ」わたしはその場を離れた。

 

次回、すっかり酔ったテッサのホテルの部屋を叩く音。まったく誰なの? 開けてみるとそこにはまさか……!?

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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