【連載26:AFTERⅡ】また怒鳴り合い…なんで彼を忘れられないの?

出張先シアトルのホテルでハーディンと一夜を過ごしたテッサ。酔っていたとはいえ、大胆すぎた自分の行動に戸惑うテッサは、その苛立ちをハーディンにぶつける。どうしていつも口論になってしまうの? どうしてまだ彼に期待してしまうの……?『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第26回。
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「嘘だね」……彼に隠しごとはできない

「間違いなんかじゃなかった。きみは明らかに、おれを恋しがってた。だから電話してきたんだろ」

「えっ? 違う、電話したのは……たまたまよ。そんなつもりなかったのに」

「うそだね」

ハーディンに隠しごとはできない。

「だったら何? 電話した理由なんてどうでもいいじゃない。あなたがここへ来る義理なんてなかったのよ」わたしはアイライナーをつかんで目の際を黒々と囲んだ。

「いや、おれには来る必要があった。きみは酔ってたし、何が起こるかわからない状態だった」

「たとえば? セックスしちゃいけない相手とベッドをともにするとか?」

ハーディンのほほが真っ赤になる。われながら刺々しい台詞だとは思うけど、あんなに酔っていた状態のわたしと寝た彼のほうが悪いのよ。わたしは濡れたままの髪をブラシでとかした。

「きみはおれに選択肢なんてくれなかった。忘れたのか?」ハーディンも同じくらい辛辣なことを言う。

忘れてなんかない。自分から彼にまたがって腰を振り動かしたのを覚えてる。セックスしないなら出ていってと言ったのも覚えてる。ハーディンはだめだと言って、やめようとした。自分の振る舞いが恥ずかしくて身震いする。

でも、彼に初めてキスしたときのことを思い出させられて最悪な気分になる。あのときハーディンは、わたしが自分から身を投げ出したと言った。

怒りがふつふつとわいてきて、わたしはブラシを放り出した。カウンターに当たって大きな音がする。「ぜんぶ、わたしのせいみたいに言うのはやめて! あなたがノーって言えばよかっただけなのに!」

「おれは、ノーって言った! なんども!」ハーディンが怒鳴り返す。

「何がどうなってるのか、頭が真っ白だったのよ。わかってたくせに!」それは半分うそだ。自分が何を求めているか、わたしはわかってた。それを認めるのがいやなだけだ。

でも、ハーディンはわたしがゆうべ言ったいやらしい台詞を繰り返し始めた。「すっごくいい味だったわ!」「前みたいに話しかけて」「あなただけよ、ハーディン!」

それを聞いているうち、わたしのなかで何かがキレた。「出ていって! もう出ていってよ!」叫びながら、時間を確認しようとスマホをつかむ。

「ゆうべは、出ていけなんて言わなかったくせに」

 

そんなのわたしじゃない……「ばかな女の子」ね

振り向いてハーディンを見る。「あなたがここへ来なくても、わたしは楽しくやってたわ。トレヴァーがいたのよ」彼を死ぬほどムカつかせたくて、わざと言う。

驚いたことに、ハーディンは声をあげて笑った。「ふん、いい加減にしろよ。トレヴァーでは、きみには物足りなくてしかたない。それは、きみもおれもわかってるはずだ。きみはおれが欲しかった。おれだけだ。いまもそう思ってるくせに」

「わたしは酔ってたのよ、ハーディン! トレヴァーと寝ることだってできたのに、どうしてあなたを欲しがらなくちゃいけないの?」そう言った瞬間に後悔した。

ハーディンの目が光ったのは痛みのせいか、嫉妬だろうか。わたしは一歩、彼に近づいた。

「やめろ」彼は腕をあげた。「そうか─わかった。きみなんて、トレヴァーにくれてやる! どうしてここへ来たのか、自分でもわからないね。きみにこんな仕打ちを受けるってわかってたはずなのに!」

苦情の電話がフロントに入る前に声を小さくしようとしたけど、自分でもできるとは思えなかった。「冗談でしょ? いきなりやってきて、こっちの弱みにつけこんだくせに、わたしを侮辱するの?」

「弱みにつけこんだ? それはきみのほうじゃないか、テッサ! おれがきみにノーと言えないのはわかってるくせに─おれを追い詰めて、追い詰めて、あんなことをさせた!」

ハーディンの言うとおりだ。それはわかってるけど、腹が立つ。ゆうべの自分の振る舞いが恥ずかしくてたまらない。

「誰が誰の弱みにつけこんだかなんて、どうでもいい─大事なのは、あなたがここを出ていって、二度とわたしのまわりをうろちょろしないってことよ」

これでおしまいというように言い放ち、ハーディンの反論を消そうとドライヤーをつける。でも、何秒もしないうちに彼はドライヤーのコードを引き抜いた。コンセントごと、壁からちぎれるかと思った。

「いったい何が気に入らないの?」わたしは大声で言い返し、プラグを入れ直した。「もうすこしで壊れるところだったわ!」

ハーディンはものすごく腹を立てている。電話で呼び出すなんて、わたしは何を考えていたんだろう?

「きみがおれと話し合いをするまで、出ていかない」

胸の痛みを無視しながら、わたしは言った。

「話し合うことなんてない。さっきもそう言ったはずよ。あなたはわたしを傷つけた。わたしはあなたを許せない。それで終わりよ」

認めたくないのはやまやまだけど、心の底では、彼がここにいてくれるのがうれしい。こうやってけんかして怒鳴りあっていても、ハーディンがそばにいるだけでこんなにうれしいなんて。

「おれを許そうなんて、最初から思ってもいないくせに」彼の声はずっと穏やかになった。

「そんなことない、許したい気持ちはあるわ。区切りをつけて前に進みたいって心のなかでは思ってるけど、できないの。これがあなたのいつもの駆け引きじゃないとは信じられないのよ。あなたが二度とわたしを傷つけないって心の底から信じることができないの」

わたしはため息をつきながら、ヘアアイロンのコンセントを入れた。「支度を終えないといけないから」

ヘアアイロンのスイッチを入れると、ハーディンはバスルームから消えた。これで部屋から出ていってくれるだろうと思いつつ、心の片隅では、彼がベッドに座って待っているよう望んでいる。

そんなばかげたことを考えるのはわたしじゃない。自分が必要としてるものからはほど遠い男に恋してしまった、愚かでお人よしな女の子。ハーディンとはぜったいにうまくいかない、ってわたしはわかってる。ばかな女の子にも、それがわかればいいのに。

髪をカールして、首のキスマークが隠れるようスタイリングする。服を着ようとバスルームから出ると、ハーディンはやっぱりベッドに座っていた。その瞬間、わたしのなかのばかな女の子が胸をときめかせる。

わたしはライトレッドのブラとパンティをバッグから取り出し、タオルを外すことなく身に着けた。タオルを床に落とすと、ハーディンははっと息をのんだのを咳でごまかそうとした。

スリップを頭からかぶって着ながら、見えない糸で彼に引き寄せられるような感じがした。でも、それに抗いつつ、クローゼットから白のワンピースをつかんだ。

こんな状況だというのに、彼がそばにいるのが不思議に心地いい。どうして、こんなに混乱させられ、神経がすり減るような思いをさせられるの? なぜ、面倒な話になるの? なんで、彼を忘れて先へ進めないの?

それがいちばんわからない。

 

次回、言い合いの中でハーディンはとんでもないことをテッサに打ち明ける。それを聞いたテッサは……!

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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