【連載32:AFTERⅡ】彼からのプレゼント!? やっぱり彼を愛してるけど…

シアトルのホテルから恋人ハーディンを追い返したテッサは、会議の後、同僚トレヴァーとディナーを楽しむ。しかしトレヴァーと楽しい時間を過ごしている時も、いつだって思い出すのはハーディンのこと。そしていよいよシアトルを後にし、テッサは誕生日を迎える……。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第32回。
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胸が締め付けられる……最高のプレゼント

次の日はキンバリーとずっといっしょだったけど、あっという間に過ぎていった。ショッピングよりもふたりであれこれ話していたほうが長かったぐらいだ。

「ゆうべはどうだったの?」

わたしのネイルをファイルしていた担当者がいかにも興味津々とばかりに顔を上げるので、にっこり笑顔で撃退した。「楽しかったわ。ハーディンとディナーに出かけたの」と言うと、キンバリーがはっと息をのんだ。

「ハーディンと?」

「間違えた、トレヴァーと」ネイルしてもらっていなかったら、おでこをたたいていたところだ。

「ふうん……」キンバリーがからかうように言うので、わたしはあさっての方向を向いた。

ネイルをすませてからデパートへ向かった。とにかくたくさんの靴を見て回り、いくつか気に入ったのを見つけたけど、買いたいと思うほどではなかった。キンバリーはトップスを何着か買った。あの熱心さからすると、ほんとうにショッピングが好きらしい。

メンズの売り場を通ると、彼女はラックからネイビーブルーのボタンアップ・シャツを取った。「クリスチャンにもシャツを買ってあげようかな。わたしが彼のためにお金を遣うと、すごく怒るのよ。それを見るのがおもしろくて」

「彼は……あの、たくさん服を持ってるんじゃないの?」詮索しているように聞こえないよう、わたしは質問した。

「ああ、それはもちろん。いやになるほどたくさん持ってるわ。でも、ふたりで出かけたときも自分の分は払うようにしてる。お金目当てで彼といるんじゃないから」キンバリーは誇らしげに言った。

彼女に出会えてよかった。ランドンをのぞけば、わたしにとって唯一の友達。女友達がたくさんいたことはなかったから、こういうのはちょっと新鮮だ。

とはいえ、クリスチャンから電話があって、迎えの車をよこすと言ってくれたのはうれしかった。シアトルではすごく楽しかったけど、最低なときもあった。帰りの道中はずっと眠ったままでいた。モーテルで降ろしてもらうと、驚いたことに、前にあったのとまったく同じところにわたしの車がとまっていた。

あと二泊分の料金を払ってから、食あたりなのか具合が悪いと母にメッセージを送った。なんの返事もなかったので、パジャマに着替えてからテレビをつけた。おもしろい番組は皆無。まさに、なんにもやってなかった。やっぱり、本でも読んでいたほうがましだ。

車内のバッグのなかを探そうと、わたしは車のキーをつかんだ。

車のドアを開けると、黒いものが目に入った。電子書籍リーダー?

拾い上げて、表面についていた小さなポストイットを剥がす。“誕生日おめでとう─ハーディン”とある。

胸がいっぱいになったつぎの瞬間、締めつけられる。

実は、どこにでも持っていけるデバイスという概念がどうにも好きになれなかった。紙の書籍を手に持つほうが好きだったけど、週末の会議に出てから、考えがちょっと変わった。それに、仕事で読む原稿をわざわざプリントアウトしなくていいのは、紙を無駄にしなくてすむし、持ち運びも楽でいい。

とにかく、ハーディンの『嵐が丘』を車の床から拾い上げて、モーテルの部屋へ戻る。

デバイスをオンにしてすぐは笑みが浮かんだものの、そのうち泣きじゃくってしまった。ホーム画面には“テス”というタブがあり、それをタップすると、ハーディンとふたりで議論したり相手の意見をばかにしたり、笑い合ったりした小説のタイトルがずらりと並んでいたからだ。

 

ハーディンとトレヴァー……比べてはいけないふたり

やっと目をさますと、すでに午後の二時。昼どきはもちろん、十一時を過ぎてもまだ寝ていたことなんて、思い出せないくらい昔だ。

でも、ハーディンのすてきな贈り物をあちこちいじりながら朝方の四時まで読書していたことを思えば、しかたない。こんなに相手のことを考えてくれたプレゼントを受け取ったのは初めてだった。

ナイトスタンドからスマホを取り上げ、出られなかった電話の件数をチェックする。母から二件、ランドンから一件。“誕生日おめでとう”のメッセージがいくつか受信箱に入っていたけど、そのひとつはノアからだった。

わたしは誕生日だといって大騒ぎするタイプじゃないけど、こんなふうにひとりぼっちでいるのもさみしい。

ううん、ひとりぼっちじゃない。『嵐が丘』のキャサリン・アーンショーや『高慢と偏見』のエリザベス・ベネットと過ごすほうが、母といっしょにいるよりずっといい。

油ぎとぎとの中華料理を山ほどデリバリーで頼み、一日じゅうパジャマでだらだら過ごした。

母に電話して“具合が悪い”と言うと、彼女の機嫌はひどく悪くなった。うそだとばれてるだろうけど、正直言って、こっちはどうでもよかった。だって、わたしの誕生日なんだもの。好きなようにするわ。ベッドに寝転がってデリバリーの食事をとり、手に入れたばかりのデバイスをいじりたいんだから。何が悪いの?

ハーディンの番号を何度かフリップしそうになったけど、そのたびにこらえた。

贈ってきたプレゼントがいくらすてきでも、彼はやっぱりモリーとセックスしている。これ以上彼に傷つけられることなんてないと思うたび、ハーディンは新手の攻撃をしかけてくる。

わたしは日曜日のトレヴァーとのディナーを思い返した。

彼はすごくいい人で魅力的だ。言葉に裏の意味などないし、わたしを素直に褒めてくれる。怒鳴ったり、ムカつくような言葉を吐いたりしない。うそをついたことだって一度もない。彼が何を考え、感じているのか、こっちがあれこれ思い悩むこともない。

頭もいいし、ちゃんと教育を受けていて、仕事でもきっちり結果を出している。そのうえ、休暇ちゅうにボランティア活動をするなんて。ハーディンとくらべると、トレヴァーは完璧。申し分ない。

問題は、ふたりをくらべてはいけないというところ。たしかに、トレヴァーはすこし退屈だ。ハーディンみたいに小説が好きというわけでもないし、虐げられた過去をもっているわけでもない。

ハーディンに関していちばん頭にくるのは、無礼なところも含めて人格すべてをわたしが愛しているところ。

ユーモアのセンスがあっておもしろくて、ときにはすごく優しくしてくれる。電子書籍リーダーをもらったことで頭がぐちゃぐちゃになる─彼に受けた仕打ちを忘れちゃだめよ。いっぱいうそをつかれたり、秘密にされたりしたし、その間ずっと、彼はモリーとセックスしてたんだから。

ランドンにお礼のメッセージを送ると、数秒以内に返事がきた。わたしが泊まっているモーテルはどこか、と言う。

わざわざここまで車で来させるのは悪いと思いつつ、このまま誰とも会わずにひとりで過ごすのもいやだった。着替えはしなかったけど、シャツの下にブラを着け、ランドンがやってくるのを待ちながら読書を続けた。

 

次回、ひとりで誕生日を過ごしていたテッサのもとへ、お祝いに来てくれたランドン。彼の口から語られた言葉にテッサは驚きを隠せず……!?

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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