【連載34:AFTERⅡ】一人で過ごすクリスマスに現れたのはなんと…!?

誕生日もクリスマスも、実家に帰らずどこにも行かず一人で過ごすと決めたテッサ。唯一訪ねてきてくれた親友が驚くべきことを教えてくれた。「ハーディンが君のことを相談しに来た。彼は君を愛してる」……戸惑うテッサ。そしてクリスマスがやってくる。テッサはハーディンがいないはずのアパートに帰るが……。連載第34回。
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見て見ぬふりをしていた……彼は私を愛してる

翌朝、アパートメントに戻る準備をした。

自分でも信じられないけど、ほかに選択肢はない。ランドンに甘えてばかりはいられないし、母のいる実家へ行くのもいや。このモーテルに泊まり続けたら、お金がなくなってしまう。

母のところへ行かないのは気が咎めるけど、意地悪な当てこすりを一週間ずっと聞かされるのはたまらない。クリスマスには帰ってもいいかもしれないけど、きょうはまだいい。あと五日かけて考えればいい。

髪をカールしてメイクを終え、白い長袖シャツとジーンズを着た。パジャマでずっと過ごしたいくらいだけど、数日分の食料の買い出しに行かなければならない。アパートメントにあるものを食べたりしたら、わたしがいたのがバレてしまう。

バッグに身の回りの品を詰めこんで、車へと急ぐ。驚いたことに、シートや床は掃除機をかけたのかほこりもなく、かすかにミントの香りがする。ハーディンだ。

スーパーへ向かうと、雪が降り始めた。クリスマスにどうしたいのか決めるまで外に出なくてすむよう、たっぷり食料を買いこむ。

レジに並びながら、ふと思った。ハーディンは、クリスマスにはどんなプレゼントをくれただろうか。誕生日の贈り物はすごく心のこもったものだった。クリスマスはお金のかからない、シンプルなものだったかも。

「前に行かないの?」後ろから女の人に大きな声でどやされる。

顔を上げると、レジ係がイライラと待っていた。いつの間にか、前に並んでいた人たちがいなくなっていた。というか、レジの列が進んでいた。

「すみません」わたしはつぶやき、買ったものをレジのベルトコンベアに載せた。

アパートメントの駐車場に車をいれながら、心臓がどきどきしてきた。ハーディンがいたら、どうしよう。まだお昼過ぎ。彼はきっと自分で運転して空港まで行き、車をそこに置いておくはずだ。

それとも、モリーが送っていったかもよ。

心の片隅でつぶやく声は、口を閉じていられないみたいだ。ハーディンがいるはずはないと確認してから車をとめ、買い出ししたものの袋をつかんだ。雪の降り方が強くなる。周りの車の上にうっすらと積もってきた。すくなくとも、もうすこしで暖かなアパートメントに入れる。

ドアまで来たところでもういちど深呼吸して、ロックを開けてさっとなかへ入る。ここはほんとうに最高の場所だ─わたしたちにとって完璧なアパートメントだったのに……いえ、彼とわたし、それぞれにとって。

戸棚や冷蔵庫を開けて、驚いた。食料でいっぱいになっている。この数日のあいだにハーディンが買い出しに行ったにちがいない。わたしは、自分が買ってきた物をとにかく空いているところにつっこんで、荷物を取りに下に戻った。

ランドンに言われたことをつい考えてしまう。

ハーディンが誰かにアドバイスを求めに行ったという事実に面食らう─しかも、彼はわたしを愛しているとランドンも言い切っていた。

前からわかっていたけど、へんに期待をしてしまうのが怖くて、ずっと心の奥にしまって見ぬふりをしていたこの事実。ハーディンに愛されていることをわたしが認めてしまったら、事態はさらに悪化するだけだ。

アパートメントに戻ってすぐにドアをロックし、バッグを置いた。

服がしわにならないよう出してハンガーにかけたけど、ハーディンとふたりで使っていたクローゼットだと思うと、胸がナイフでえぐられたように痛む。

クローゼットのなかには、彼の黒いジーンズが何本か左側にかかっているだけだった。彼のTシャツをかけてあげたくなるけど、なんとかこらえた。どうせ、いつもしわになっているし。それでも、ハーディンが着るとすてきに見えるけど。

隅のほうにだらしなくかけられている黒のドレスシャツに目が留まる。ケンとカレンの結婚式にハーディンが着ていったものだ。わたしはさっさと自分の服をかけて、クローゼットを離れた。

 

会ったことはなかったけれど……ひと目でわかった

レンチンしてマカロニ・チーズを作り、テレビをつけた。すくなくとも二十回は観た『フレンズ』の再放送だったけど、キッチンでも聞こえるよう音量を上げる。

ドラマに合わせて台詞を言いながら、食洗機に皿を入れていく。ハーディンにバレたらいやだけど、汚れものをシンクにそのままにしておくのは耐えられない。

ろうそくに火を点けてカウンターを拭いたかと思うと、いつの間にか床を掃き、ソファに掃除機をかけてベッドメイクまでしていた。

アパートメント全体がきれいになると、自分の汚れものの洗濯を始めて、乾燥機に入れっぱなしになっていたハーディンの服を畳んだ。先週以来、こんなにも穏やかに過ごせたのはきょうが初めて。

と思ったのもつかの間、何人かが話す声が聞こえて、玄関ドアのロックがゆっくり回るのが見えた。

やだ。また、彼だわ。

どうして、わたしがアパートメントにいるときにかぎって現れるの? ハーディンからスペアキーを渡された友達の誰かが、留守のあいだの確認に来たのならいいけど。もしかして、ゼッドが女の子といっしょに来た? ハーディン以外なら誰でもいい─お願いだから、ハーディンだけはやめて。

見たことのない女性が戸口から入ってきたけど、ひと目で誰かわかった。似ているところは否定のしようがないし、すごく美人だ。

「まあ、ハーディン、このフラットはすてきね」息子と同じくらい、きついイギリス英語のアクセント。

まさか。うそ、でしょう? ハーディンのお母さんの前で、まったくのサイコパスみたいに見えちゃう─こっそり入りこんで戸棚に食料を置き、服を洗濯機で洗い、アパートメント全体をぴかぴかに掃除しまくってるなんて。パニックして固まっていると、彼女が顔を上げてこちらを見た。

「まあ、なんてこと! あなたがテッサね!」彼女はにっこりして、早足でやってきた。

ハーディンは戸口を抜けると、首を傾げながら花柄プリントの旅行用かばんを床に下ろした。見るからに驚いた表情。わたしはなんとか彼から目をそらし、両手を広げてやってくる女性のほうを向いた。

「今週はあなたがいないってハーディンから聞いて、すごく残念だったのよ!」彼女はまくしたてると、わたしをぎゅっと抱きしめた。「まったく、うそをついて驚かせようなんて、生意気な子だと思わない?」

なんですって?

彼女はわたしの肩に両手をのせ、自分の顔をじっくり見るよう促した。「まあ、なんてかわいらしいのかしら!」と甲高い声をあげて、またわたしを抱きしめる。

わたしは黙ったまま、彼女を一度だけハグした。ハーディンはビビっているのと同時に、すっかり不意打ちを食らったような顔をしていた。

それはこっちも同じよ。

 

次回、今年のクリスマスは一人で過ごそうと決め、ハーディンのいないアパートに戻ったテッサ。しかしそこに現れたのは、彼と……!?

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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