【連載36:AFTERⅡ】彼と彼ママと…3人で過ごすクリスマス

テッサは、恋人ハーディンが仲間たちと自分の処女を奪えるか賭けていたことを知り、2人で住むアパートを飛び出した。彼と一緒にロンドンで過ごす予定だったクリスマスも一人で過ごそうと決めて、彼がいないはずのアパートに戻る。するとそこへ彼と彼のお母さんがやってきて……!? 『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第36回。
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違う状況で出会えていたら……せつない憧れ

「おれがきみに何を話した、って?」

緊張が一気に高まる。でも驚いたことに、彼のお母さんがとりなしてくれた。

「なんでもないわ、単なるガールズトークよ」

そして、息子のところへ行って腰に腕を回す。ハーディンは本能的にそうしたのか、すこし身を引いた。トリッシュは顔をしかめたものの、ふたりのあいだではこれがふつうのことらしい。

乾燥機のブザーが鳴る。わたしはこれ幸いとばかりに部屋を出た。洗濯を終えて、さっさとここを出なければ。

ふわふわと温かい服を乾燥機から引っ張り出し、狭いランドリールームの床に座ってたたむ。

ハーディンのお母さんはほんとに感じのいい人だ。もっと違う状況で出会えたらよかったのに。ハーディンに対する怒りはもうない。もう、怒りすぎて疲れた。いまの心にあるのは悲しみ。そして、わたしたちふたりがもっと違う関係でいられたらという、せつない憧れだけだ。

服をたたみ終え、寝室に行って荷物をまた詰めた。クローゼットに服をかけたり、買いこんだ食料をキッチンに入れたりしなければよかった。

「お手伝いしましょうか?」トリッシュが声をかけてくる。

「えっと、一週間ほど実家の母のところへ行くので、準備をしてるだけなんです」モーテルは高いので、どのみち、そっちへ行くしかない。

「きょう行ってしまうの? いますぐ?」彼女は眉根を寄せた。

「ええ……クリスマスには帰ると言っていたので」このときばかりは、うまい言い訳をでっちあげる手伝いをハーディンにお願いしたいぐらいだった。

「せめて、ひと晩くらいはいっしょに過ごせるかと思っていたのに。こんどはいつ、あなたに会えるかわからないし─息子が恋に落ちた娘さんのことを、もっとよく知りたいわ」

ふいに、この人を喜ばせてあげたくなった。彼女とケンとのことを知っていると口を滑らせてしまったせいなのか、ハーディンの前で彼女がわたしをとりなしてくれたからなのか、それはわからない。でも、考えすぎるのはやめよう。わたしは胸のなかでつぶやくいつもの声に耳をふさいでうなずいた。

「いいですよ」

「ほんとうに? 泊まってくれるの? ひと晩だけね。お母さんの家に帰るのは、それからでも遅くないわ。どのみち、こんな雪のなかを車で走るのはいやでしょう?」

トリッシュはわたしの体に両腕を回してハグした。これで五回目だ。

すくなくとも、彼女はわたしとハーディンのあいだの緩衝材になってくれる。お母さんがいれば、けんかなんてできない。すくなくとも、わたしはそんな気にはなれない。

ここに泊まるなんて、たぶん……いえ、いい考えだとはとても思えないけど、トリッシュにノーと言うのは難しい。この母にしてあの息子あり、だ。

「じゃあ、さっとシャワーを浴びるわ。ほんと、長いフライトだったから!」彼女は満面の笑みとともに出ていった。

わたしはベッドにへたりこみ、目を閉じた。これからの二十四時間は、人生でいちばん気まずくて耐え難いものになるだろう。ハーディンが絡むと、こちらが何をしようと、結局は元の木阿弥になってしまう気がする。

 

どう振る舞ったらいいか……さっぱりわからない

数分後に目を開けると、ハーディンがクローゼットの前でこちらに背を向けて立っていた。「ごめん、邪魔するつもりはなかったんだが」と言って振り向くので、わたしは体を起こした。ふた言目には謝ってばかりで、ハーディンったらすごく変だ。

「アパートメント、掃除してくれたんだな」

「ああ、うん……我慢できなくって」わたしがほほ笑むと、彼もにっこりした。

「ハーディン、今夜はここに泊まるってお母さんに話したの。今夜だけよ。でも、あなたがいやならやめる。お母さんがあまりに嬉しそうだから、なんだか悪くて、ノーとは言えなかったの。だけど、あなたが気まずい─」

「いいよ、テッサ」ハーディンはすぐさま答えたものの、震える声で言い添えた。「おれもきみに泊まってほしい」

なんて言ったらいいのかわからない。それに、こんな事態になったのがよく理解できない。誕生日プレゼントのお礼も言いたかったのに、とにかく頭のなかでいろんなことがぐるぐるしていた。

「昨日はいい誕生日だったか?」

「ああ、うん。ランドンが来てくれたの」

「そうか……」

ハーディンは何か言いたげだったけど、ちょうどそのときリビングのほうでお母さんの声がしたので、彼は腰を上げた。でも、ドアを抜けようとする前にこちらに向き直る。

「どう振る舞ったらいいのか、さっぱりわからない」

わたしはため息をついた。「それはこっちも同じよ」

もっともだ、とハーディンがうなずく。わたしたちは、リビングにいる彼のお母さんのところへ向かった。

 

次回、断り切れずアパートに泊まっていくと約束したテッサ。お別れしたはずの彼と、彼のお母さんと、3人で過ごす不思議な夜……。

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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