【連載37:AFTERⅡ】ぎくしゃくする2人…以前のようには戻れない

テッサは、恋人ハーディンが仲間たちと自分の処女を奪えるか賭けていたことを知ってしまった。許せないと思う気持ちと、まだお互いに愛し合っているという事実の間で揺れ動くテッサ。そんな中、なりゆきで彼と彼のお母さんと休暇を過ごすことになったが……。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第37回。
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楽しくて……すべてを忘れそうになる

ハーディンとリビングに戻ると、お母さんは濡れた髪を頭のてっぺんでまとめたままソファに座っていた。年齢のわりにすごく若く見える。それに、すごく魅力的だ。

「映画を何本か借りて観ましょう。夕食はわたしが作ってあげるわ! お母さんの手料理が恋しくない? おちびちゃん?」

ハーディンはあきれたような表情で肩をすくめた。「はいはい。母さんは世界一のシェフだよな」

これ以上ないほど居心地の悪い瞬間。

「ちょっと! そんなにひどいとは思わないけど」お母さんは声を立てて笑った。「そういえば、今夜はあなたがシェフになるって言ってたような気がするけど?」

落ち着かなくてもぞもぞする。ハーディンといるのにけんかもせず、いちゃいちゃもしないでいると、どう振る舞っていいのかわからない。

なんだか変な感じだけど、ふいに気づいた。前にもこんなことがあったわ。カレンとケンは、わたしたちがほんとうにつき合い始める前に、すでに恋人同士みたいなものだと思いこんでいた。

「あなたは料理できるの、テッサ」とトリッシュが尋ねる。「それとも、やっぱりハーディンが?」

「えっと、ふたりとも料理しますよ。材料を切って煮炊きするんじゃなくて、レンジで温めるとかそんな程度ですけど」

「息子の面倒を見てくれてるとわかって、うれしいわ。このアパートメントもすてきね。掃除はテッサの担当じゃないかしら」

“息子の面倒を見る”ことなんて、していない。彼があんなふうにわたしを傷つけたせいで、そうできなくなったのに。

「そうですね……ハーディンはちょっとだらしないから」

彼は口元にうっすら笑みを浮かべてこちらを見た。

「おれがだらしないんじゃない─彼女がきれい好きすぎるんだ」

わたしも負けじとあきれ顔を作った。「あなたはだらしないわ」トリッシュと声を揃えて言ってしまう。

「映画を観るのか、それともひと晩じゅう、おれをいじめて楽しむのか?」ハーディンが口をとがらせる。

わたしはハーディンより先にソファに腰を下ろした。そうすれば、どこに座ればいいのか決めるという気まずい場面を避けられる。彼はひそかにこちらを見て、どうすればいいのか考えていたけれど、しばらくして、わたしのすぐ隣に座ってきた。彼の体から熱が伝わってくるのがなんだか懐かしい。

「どんな映画を観たい?」とトリッシュが質問してくる。

「なんでもいい」

「お母さんが決めてください」わたしは、そっけないハーディンの答えを和らげようと言った。

トリッシュはにっこりして『五十回目のファースト・キス』と答えた。ハーディンがぜったいにいやがる、ロマコメ映画だ。

思ったとおり、観始めるやいなや、彼は鼻を鳴らした。「エンディングが見えるような映画じゃないか」

「しーっ」と言うと、彼はむっとしたものの黙ったままでいた。

トリッシュと笑ったり、ため息をついたりしながら映画を観ていると、何度かハーディンの視線を感じた。

実は楽しくて、彼とのあいだに起こったすべてを忘れてしまいそうになる瞬間もあった。彼に体を預けたり手に触れたり、額にかかる前髪を払ってあげたくなるのをどうにかこらえるのが、すごくつらかった。

 

こんなこと、いつまで続けられる?

「腹減った」ハーディンは映画が終わるとつぶやいた。

「テッサと料理したらどう? わたしは長い空旅で疲れたわ」

「長い空旅で疲れた、疲れたってしつこく言うんだな?」

トリッシュは皮肉っぽくほほ笑んだ。ハーディンもそんな表情をしたのを何度か見たことがある。

「料理ならしますよ」と言って、わたしは立ち上がった。

キッチンへ入り、カウンターにもたれる。ひと息つこうとして、大理石のカウンタートップをぎゅっと握る。

こんなこと、いつまで続けられるだろう。ハーディンは何もぶち壊してなんかいない、わたしも彼を愛しているというふりをするなんて。

違う、わたしは彼を愛してる、どうしようもないくらい好きでたまらない。

問題は、いつも不機嫌で自分のことしか考えていないこの男子に対して、わたしがなんの気持ちも持っていないことではない。彼に何度もチャンスをあげたり、彼に言われたりされたりした、やりきれないことをすべてなかったものとしてきたことだ。でも今回ばかりはとにかく無理。

「ハーディン、手伝ってあげなさい」

トリッシュの声が聞こえた。わたしはちょっとしたパニックなど起こしていないふりをしようと、フリーザーのところへ急いだ。

「あの……手伝おうか?」狭いキッチンにハーディンの声が響く。

「うん……」

「アイスキャンデー?」

手を見ると、チキンを取り出すつもりだったのにアイスを握っていた。すっかり取り乱していたらしい。

「そうよ。みんな、アイスキャンデーが好きでしょ?」と言うと、ハーディンはにっこりした。あの危険なほど魅力的なえくぼがほほに浮かぶ。

だいじょうぶ。そばにハーディンがいても平気よ。わたしは穏やかに接するし、ふたりでなんとか切り抜けられるわ。

「前に作ってくれた、あのチキンパスタを料理すべきよ」

緑色の瞳がじっとこちらを見る。「それが、きみの食べたいもの?」

「ええ。作るのが面倒でなければ、ぜひ」

「もちろん、面倒なんてことはない」

「きょうのあなたはすごく変」トリッシュに聞こえないよう、小声で言った。

「そんなことない」ハーディンは肩をすぼめ、こちらへ歩いてきた。

体を寄せてくる彼の姿に心臓がばくばくし始める。脇へどこうと後ずさると、彼はフリーザーのドアに手をかけて開けた。

 

次回、「ハーディンと一緒にいると、愛しい気持ちを思い出してしまう」テッサは平静を装っていたが、ハーディンがみせたのは……涙!?

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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