【連載39:AFTERⅡ】主導権は私…!揺れる2人の関係

恋人ハーディンが自分の処女を賭けに使っていたと知り、その裏切りにテッサは彼を突き放す。しかし仕事に没頭していても、シアトルで楽しい夜を過ごしていても、いつも思い出すのは彼のこと。傷付いた彼を目の当たりにしてテッサは自分の心を決めつつあった。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第39回。いよいよクライマックス!
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彼を愛したりしなければよかった

その涙を止めるために、何か─なんでもいいから─言ってあげたい。彼の心の痛みを消し去るために。

でも、わたしが毎晩泣きつかれてひとりで眠りに落ちていたころ、ハーディンはどこにいた?

「出ていってほしい?」

ハーディンはうなずいた。

いまでもなお、拒絶されると傷つく。わたしはここにいてはいけないし、彼とこんなことをしていてもいけない。それはわかってるけど、もっといっしょに過ごしていたい。つらく危ういひとときであっても、いっしょにいられないよりはずっとましなのに。

ハーディンを愛したりしなければよかった。彼となんて、出会わなければよかった。

でも、出会ってしまった。そして、わたしは彼を愛している。

「そう、わかった」わたしは気持ちをぐっと抑えて立ち上がった。

その瞬間、ハーディンに手首をつかまれた。

「ごめん。何もかもすべて、きみを傷つけたこと、とにかく、ごめん」

いかにも最後の別れという口調。

こんなの認めたくないけど、ハーディンにさよならを言われるのを受け入れる心構えはまだできていなかった。胸の底では、自分でもわかっていた。でも、彼をあっさり許すこともできない。もう何日もずっと混乱したままで過ごしているけど、きょうのレベルはそれとは比べものにならなかった。

「わたし……」

「なんだ?」

「わたし、出ていきたくない。そうすべきだとはわかってるけど、いやなの。すくなくとも、今夜はいや」

そう言った瞬間、すっかり打ちのめされてバラバラになったような男が、ゆっくりと元どおりの姿になっていくのが見えたような気がした。信じられないほど美しいけど、胸の奥を震わさせるような光景でもあった。

「それって、どういう意味だ?」

「わたしにもわからない。でも、いまはそれを考える気にもなれない」

口に出して言うことで、この不思議な感情をなんとか理解しようとした。

ハーディンは放心したような表情で、こちらを見た。先ほどのすすり泣きは微塵もない。何かに動かされているかのように彼はシャツで顔を拭いた。

「わかった。きみはベッドで眠れよ。おれは床で寝る」

枕をふたつとスローケットをベッドからつかむ彼を見て、思わずにはいられなかった。さっきのあの涙は見せかけだけだったんじゃないだろうか。でも、やっぱりそんなはずない。なぜかはわからないけど、わたしには確信があった。

 

愛するって……こんなじゃない

ふたりで使っていた羽根布団に包まれながら、ある思いが頭のなかをぐるぐるする。あんな状態のハーディンを二度と見ることはないだろう。涙を振り絞るように体を震わせる姿は感情むき出しで、ひどく無防備だった。

わたしとハーディンの関係性はつねに揺れ動いて安定しない。いつも、どちらかいっぽうが優位に立ち、もういっぽうを支配するような関係。いま主導権を握っているのはわたしのほうだ。

でも、そんなのいや。この関係性も好きじゃない。愛するって、こんな言い争いじゃないはずだ。

それに、わたしたちのあいだで起こっていることをほんとうに把握しているかどうか自信がない。ほんの数時間前はすべてわかっているような気でいたけど、ハーディンがこれほど動揺しているのを目の当たりにしたあとでは、こちらも混乱して判断力が鈍っている。

暗闇のなかでさえ、見つめられているのを感じる。詰めていた息を吐き出すと、彼はすぐさま言った。「テレビ、つけてほしいか?」

「ううん。あなたが見たいなら、どうぞ。でも、わたしはいい」

電子書籍リーダーがあればよかった。そうすれば、読みながら眠れたのに。『嵐が丘』のキャサリンとヒースクリフの人生が崩壊するのを見ていれば、自分が受けた痛手がすこしは軽く思えたかもしれないのに。

キャサリンは、ヒースクリフを愛している自分にあらがおうとして一生を過ごした。自分の気持ちを決めかねたまま、でも結局はヒースクリフの許しを請い、彼なしでは生きられないと認めて─その数時間後に亡くなった。

だけど、わたしはハーディンがいなくても生きられるでしょう? いまの気持ちを否定しながら生きるなんていやだ。これは単なる一時の気の迷いで……そうだよね? お互いが頑固に意地を張っているせいで、自分たちはもちろん、周りの人たちにみじめな思いをさせてるなんてことはないはずだ、違う?

『嵐が丘』との共通点をはっきり否定できない自分にも腹が立つ。とくに、常識的で穏やかなトレヴァーをエドガーになぞらえるようになったからだ。どう考えたらいいのか、自分でもわからなくて、まったく落ち着かない。

「テス?」わたしだけのヒースクリフが声をかけてきて、思いが打ち破られる。

「うん、何?」

「おれ、モリーとはヤッて……寝てない」

下品な言葉を言い直せば、ショックも薄れると思っているのかしら。わたしは黙ったままでいた。この件を持ち出したハーディンに驚いたのもあるけど、その言葉を信じたいという気持ちもあったからだ。でも、彼がうそや策略を巧みに使う人だというのを忘れるわけにはいかなかった。

「うそじゃない、ほんとうだ」

まあ、そこまで言うのなら……。「じゃあ、どうしてあんなこと言ったの?」

「きみを傷つけるためだ。きみがどこかの男にキスしたと聞いて頭にきたから、いちばん傷つくだろうことを仕返しとして言ってやった」

ハーディンの姿は見えなかったけど、組んだ両手を後ろ頭に回して横たわり、天井をじっと見つめているはず。「ほんとに、誰かにキスしたのか?」わたしが返事をする前に彼はまた、質問してきた。

「うん」と答えたものの、はっと息をのむ音がしたので衝撃を和らげてあげようと言い添えた。

「一度だけね」

 

次回、テッサとハーディンは互いに歩み寄ることができるのか? 2人の行方は……ついに連載最終回!

 

 

【参考】

アナ・トッド(2016)『AFTER season2 壊れる絆 1』(小学館文庫)

 

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