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浮気の慰謝料の時効や証拠って?慰謝料請求された時にすることと慰謝料の計算方法

中田綾美

中田綾美A.Nakata

目次

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1:不貞行為の慰謝料相場…判例は?離婚しない場合はどうなるの?

パートナーに裏切られた心の傷は、何億円積まれても癒しがたい……というのが浮気された側の偽らざる本音でしょう。ただ、残念ながら実際にはそれほど莫大な慰謝料が認められるわけではないようです。不貞行為の慰謝料の相場は、200万円~300万円程度だそう。

また、慰謝料の算定において、最大の判断ポイントは“その不貞行為によって婚姻関係が破壊され、離婚にまで至ったどうか”。なので、離婚しない場合は50万円程度になることもあるとのことです。

慰謝料の額の判断要素について、詳しくは後述します。

2:不貞行為で慰謝料請求されたら弁護士に相談?…慰謝料請求されたときの注意点6つ

「あなたは私の夫と浮気しましたね。つきましては、慰謝料500万円を期日までに支払ってください」

既婚男性と1度でも肉体関係を持ったことがあるなら、妻からこうした請求がなされるのを覚悟しておく必要があります。また、肉体関係はないものの、親密にデートを重ねているグレーな関係、あるいは、全く身の覚えがなく単なる仕事上の付き合いであっても、相手方の妻から不倫を疑われてしまう可能性はゼロではありません。

一般的に、慰謝料は、内容証明郵便という書面でまずは請求されることが多いようです。ある日突然、慰謝料請求に関わる内容証明郵便を受け取ったら、どのように対処すればいいのか、みずほ中央法律事務所の林誠吾弁護士に注意点を教えていただきました。

(1)内容証明郵便を無視しない

「内容証明郵便を受け取っても、何も行動を起こさずに無視してしまう人がときどきいるようです。しかし、そのまま状況を放置すると、相手方から訴訟を起こされ、さらに、銀行預金等の財産を仮に差し押さえられてしまうおそれがあります。

身に覚えがある場合はもちろんのこと、たとえ、“自分はそんなことやっていない”という場合でも、早めに弁護士に相談するほうがいいでしょう。

また、実際に不貞行為があったのに内容証明郵便を無視し続けた場合には、態度が不誠実だということで、慰謝料の算定において不利にはたらくおそれもゼロではありません」(以下「」内はみずほ中央法律事務所 林誠吾弁護士)

(2)事実関係を整理する

「既婚男性との間に肉体関係があり、不貞行為が成立する場合も、事情によって慰謝料の額はかなり変わってきます。ですから、相手方から慰謝料を請求された場合は、“こんなに払えない、どうしよう!”とただ動揺するのではなく、まずは落ち着いてこれまでの経緯を整理しましょう。

いつどこで知り合って、何回、肉体関係があったのか? 相手のことをどれくらい知っていたのか?などです。

たとえば、出会ったのが婚活サイトで、独身者だと騙されたまま肉体関係をもった場合には、そもそも不法行為が成立せず、慰謝料も支払わずに済む可能性があります。

また、既婚者だとは知っていたけれど、相手に子供がいることまでは知らなかったという事情などは、慰謝料の減額事由に当たることもあります。

事情によっては、慰謝料額の交渉において有利・不利になることもあるので、自分のやってきたことを冷静に振り返り、事実関係を整理しておきましょう」

(3)依頼した弁護士には包み隠さず話す

「先ほど、“事情によっては、慰謝料額の交渉において有利・不利になることもある”とお伝えしました。しかし、どんなやましいことも、自分の代理人として交渉にあたる弁護士には、包み隠さず伝えましょう。

後ろめたいからといって弁護士に変に隠し立てしたり、嘘をついたりすると、かえって自分のためになりません。

たとえば、依頼人が“肉体関係を持ったのは一度だけ”などと話していたのに、いざ弁護士が相手方と対峙すると、継続的に不貞行為があった動かぬ証拠を突きつけられた……なんてことになったら、弁護士は対処のしようがありません。そうなると、依頼人と弁護士との信頼関係にも傷がつきます。

弁護士には“依頼人との関係で職務上知りえたことを口外してはならない”、という守秘義務が課されています。なので、どうかご安心のうえ、何でも話していただければと思います」

(4)示談書や合意書に安易にサインしない

「弁護士に相談せず、直接自分が相手方と交渉する場合、とにかく一刻も早くトラブルから解放されたい、という一心で、相手方が提示してきた示談書や合意書の内容をよく確認もせず、安易にサインしてしまう人もいます。

この場合、たとえ相場よりかなり高い金額の慰謝料であっても、自分の意思でサインした以上はその金額を払わなければならない可能性が高いです。

サインしてから、“いくらなんでも高すぎるのでは?”と気づき、その時点で慌てて弁護士に相談しても、あとのまつり。相手方の脅迫によってサインしたなど、よほど特殊な事情がない限り、支払い義務から逃れることは難しいです。なので、示談書や合意書に安易にサインしないようにしましょう」

(5)もし慰謝料を支払うならきちんと合意書を作成する

「これも弁護士に依頼せず、自分で問題解決する場合に気をつける点です。相手からの請求に応じる際には、“慰謝料は全額支払ったので以後は一切の責任を負わない”ということが確認できる書面を作成しましょう。

問題が解決した旨の合意書を作成しておかなければ、お金を支払ったにも関わらず、“この前は一部の請求しかしていなかった”と追加で慰謝料を請求されるおそれがあります」

(6)不倫相手の男性とはプライベートな接触を断つ

「当然のことながら、請求を受けた時点で不倫相手の男性とのプライベートな接触は断ちましょう。請求後もなお関係を持ち続ければ、慰謝料の算定においてマイナスにはたらきます。

もちろん、妻との交渉を有利に進めるために、不倫相手の男性からいろいろ事情を聞く必要があるかもしれません。その場合も、あらぬ疑いをかけられぬよう、必ず弁護士同伴で話し合いの場を持つこと。くれぐれも2人きりで会うのは避けましょう」

3:浮気の慰謝料には時効はある?浮気相手への慰謝料請求の方法と注意点5つ

前章では、「慰謝料を請求された場合の注意点」をお伝えしました。逆に、慰謝料を請求する立場ではどうなのでしょうか?

(1)時効が成立しないうちに請求する

浮気に限らず、民法上の不法行為については、加害者を知ったときから3年、あるいは、加害者を知らないままでも、不法行為から20年経過すると、時効が成立します。

この“加害者を知ったとき”とは、“不倫相手の名前と住所を把握したとき”と解されています。もし、相手を訴えるつもりがあるのならば、時効が成立しないうちに、なるべくすみやかに行動を起こしましょう。

(2)証拠をしっかり集める

「慰謝料請求する側としては、“相手はやましいことをしているのだから、こちらが訴えればすぐに非を認めるはずだ”と考えがちです。

しかし、内容証明郵便で慰謝料を請求した時点では、相手方の大半は不貞行為があったことを否定します。というのも、内容証明郵便では、不貞行為があったことと、慰謝料請求する旨を簡潔に示すのみで、証拠の添付は行わないからです。

内容証明郵便による通知だけでは、相手がすぐに折れないことを見越して、不貞行為の証拠を集めておきましょう」

慰謝料請求された側としては、「証拠を突きつけられない限りは、とりあえずしらばっくれておこう」となり、非を認めないわけですね。証拠の集め方については、のちほど解説します。

(3)請求は必ず書面で行う

「慰謝料の請求は、必ず内容証明郵便などの書面で行いましょう。弁護士に依頼しない場合、自分で電話をかけたりメールを送ったりして請求する人もいますが。しかし、書面によらなければ、時効の関係で不利になるおそれがあります。

時効は、請求をかけることによって6か月延長します。でも、その効果が認められるには、何月何日に請求したのかが明確であることが必要なのです。電話だとその証拠が残りませんし、メールは「送信日時の改ざんが可能」とされ、証拠として認められないおそれがあります。

内容証明郵便のように、いつ・どのような内容の書面を送ったのかが公的な記録として残せる手段で請求しましょう」

(4)職場に送る場合は、本人以外が開封しないよう“親展”扱いにする

「浮気相手の自宅はわからないけれど、職場はわかるという場合、内容証明郵便を職場に送ることもできます。しかし、その際、注意すべき点があります。

不倫している事実を職場にむやみに告げることは、プライバシー侵害や名誉毀損に該当しえます。このため、もし、内容証明郵便を送ることによって、不倫の事実が職場に知れ渡ってしまうと、相手から逆に訴えられるおそれがあるのです。

ですから、慰謝料請求の内容証明郵便を相手の職場宛てする場合は、封筒に“親展”と記載しましょう。“親展”とは、その封書を名宛人自身が開封することを要求する文言で、もし、本人以外が開封すると、一応は信書開封罪に該当します。

もちろん、親展と書かれていても、職場に届いた郵便物は、本人以外が開封する可能性が十分あります。それでも親展扱いにしていたことによって、相手からプライバシー侵害や名誉毀損を主張されるリスクを低めることが可能です」

(5)書面に脅し文句を書かない

「弁護士が書面を作成する場合はまずないのですが、浮気された本人が書面を作成する場合、感情が高ぶって、つい物騒なことを書いてしまうことがあります。

たとえば、「慰謝料を期日までに支払わなければ、不倫の事実を会社や家族にばらす」など、何らかの危害を加えることを告知するなどです。

先ほどもお伝えしたように、不倫の事実を会社などに公表することはプライバシー侵害や名誉毀損に当たる可能性があります。また、要求に従わなければそうすると告げることは脅迫罪が成立するおそれがあります。

心情的には理解できるのですが、自分にとって不利になる脅し文句は書かないようにしましょう」

4:知っておきたい!浮気の慰謝料計算に加味される項目5つ

はじめにお伝えしたように、浮気の慰謝料の相場は200万円~300万円程度です。この章では、どのような事情によってその額が決まるのかを見ていきましょう。

(1)婚姻関係が破壊され、離婚にまで至ったかどうか

慰謝料算定の最大のポイントです。不貞行為があっても、婚姻関係が破壊されたとまでは言えず、離婚に至らない場合は、50万円程度に抑えられることもあります。

(2)不貞行為の相手との交際期間の長さ

不倫の交際期間が長いほど、婚姻関係に与える影響が大きいと評価されて、慰謝料は高くなります。

(3)婚姻期間の長さ

婚姻期間が長いほど、不貞行為によって破壊される関係が重いと考えられるため、慰謝料は高くなります。

(4)子供がいるかどうか

子供がいるほうが慰謝料は高くなります。特に、まだ養育が必要な子供がいる場合は、「不貞行為による婚姻関係の侵害の程度が大きい」と解され、慰謝料の増額要素となります。

(5)慰謝料を支払う側の収入

不倫の期間が長いなど、かなり悪質な不倫であったとしても、浮気相手の懐事情によっては、高額な慰謝料を払うことが事実上、不可能です。

このため、裁判外の示談においては、支払う人の収入を考慮しながら交渉を進めていくこともあります。

「上記の(1)~(5)はあくまで目安であり、実際には、(1)~(5)以外にもさまざまな事情を総合的に考慮して、慰謝料が決まります。つまり、慰謝料は事案ごとに“個別具体的な事情によって決まる”ものなので、どういうケースでいくらになるのか、というのは一概にはいえません」

5:浮気の証拠!きちんと慰謝料請求するための残し方3つ

慰謝料を請求するための浮気の証拠としては、“ラブホテルや相手の自宅に2人で入っていく姿をとらえた写真”、“密会したことを示すSNSでのやりとり”などが挙げられます。

こうした証拠を集めるうえでの注意点を教えていただきました。

(1)費用はかかっても調査会社に依頼する

「費用はかかってしまいますが、調査会社(探偵)に依頼するのがよいかと思います。

やはり、プロはプロならではの尾行のノウハウや写真撮影の技術などがありますので、一般の方ではなかなか集められない証拠を、効率的に集めることが可能です」

そういえば、妻が自分で証拠を集めようとしていたら、夫にバレて余計に警戒されたり、逆ギレされたり……という話も耳にします。配偶者が浮気している疑いが濃厚な場合は、餅は餅屋ということで、プロに調査をお願いしたほうがスムーズに解決できるかもしれませんね。

(2)自分で集める場合はプライバシー侵害等に気をつける

「調査会社に依頼するお金がないなどで、やむをえず自分で証拠を集める場合には、注意すべき点がいくつかあります。

まず、証拠を集めたい一心で、他人の敷地内に立ち入ってしまうと、住居侵入罪に問われる可能性があります。たとえば、オートロック式のマンションに入居者にまぎれこんで侵入するなどの行為は非常に危険です。

また、道路上で外から見える範囲を撮影するのは差し支えないのですが、敷地内に立ち入って、外からは容易に見えない室内などを撮影すると、プライバシー侵害の問題も生じるおそれがあります」

(3)SNSの不正侵入はアウト!スマホのロック解除は現時点ではセーフ

「SNS上での証拠をつかむために、何らかの手段で夫や浮気相手のIDやパスワードを入手して、ログインするというケースがあります。しかし、この行為は不正アクセス禁止法という刑事罰に該当するものです。

また、(2)にも当てはまることですが、違法な手段によって証拠を集めた場合、その証拠は裁判上では一切、認められない可能性もあります。なので、絶対にやめましょう。

他方、今のところ、配偶者のスマホのロック解除は法的に罰する規定がありません。ただし、別途、プライバシー侵害という民事上の問題が生じうる点には注意してください」

素人が独断で証拠集めをすると、つい無茶をして自分が法を犯してしまい、相手から訴えられたり、せっかく集めた証拠が無意味になったりするおそれがあるのですね。そういう点でも、証拠集めはプロにお任せするのが安心かもしれません。

6:恋人同士でも浮気の慰謝料を請求できる場合がある!?

最後に、林弁護士に「婚姻関係にないカップルでも浮気があった場合に慰謝料を請求できるのかどうか」を尋ねてみました。結果、下記2つのケースでは認められる余地があるとのことです。

(1)内縁関係が不貞行為によって破壊された場合

「婚姻の届出を出していないだけで、実質的には夫婦同然と認められる内縁関係においては、夫婦に準じて不貞行為による慰謝料請求が認められることがあります。

内縁関係といえるためには、単に同居しているだけでなく、その期間が長く(一般的には3年以上)、結婚式を挙げていたり、身内の冠婚葬祭に2人で出席していたりするなど、社会的に夫婦と認められている実態が必要です。

また、このケースの場合、婚姻意思を持っていることが必要なので、いわゆる妾関係の場合は内縁には当たりません」

(2)婚約していたのに不貞行為によって婚約破棄に至った場合

「婚約していたカップルが、一方の不貞行為により婚約破棄に至った場合、慰謝料請求が認められる可能性があります。

婚約していたかどうかは、プロポーズや婚約指輪、双方の親へのあいさつの有無、あとは、結婚式場の予約など結婚に向けて何らかの準備をしていたかどうかによって判断されます。

ただ、法律がより厚く保護しているのは、あくまでも「婚姻関係」なので、それ以前の婚約破棄では慰謝料は最大でも100万円程度が一般的な相場です。結婚前にすでに子供ができているなどで、侵害の程度が著しい場合は、200万円程度まで認められるケースもあります」

7:まとめ

以上、不貞行為の慰謝料について、みずほ中央法律事務所の林誠吾弁護士にさまざまな角度からアドバイスをいただきました。請求する側でもされる側でも、なかなかハードな立場を余儀なくされることはよくわかりましたよね。

いざというときのために知識を備えておくことは大事です。しかし、何よりも浮気しない・されない人間関係を築いていきたいものです。

【取材協力】

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士 林誠吾