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弁護士に聞く!痴漢を疑われた際の本当に正しい対処法

中田綾美

中田綾美A.Nakata

 

前回の記事では、男性が痴漢冤罪に巻き込まれないための方法を解説しました。

今回は引き続き、弁護士法人みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士のお話をもとに、「この人、痴漢です!」と不幸にも犯人と間違われた場合の対処法を紹介します。

 

目次

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■“逃げるが勝ち”は本当か?

痴漢冤罪では、身の潔白を証明するのは極めて難しいです。そのため、痴漢に間違われたら、“とにかく逃げるが勝ち”ということをよく耳にしますが、本当なのでしょうか。

三平弁護士によれば、ダッシュで逃走はリスキーであるとのこと。

気が動転して逃げ出したくなるのは当然でしょう。ただし、逃げ切れずに捕まってしまった場合、“一旦逃走した”ということが不利に働きます。“やましいことがあるから逃げたんだろう。やっぱりお前が犯人だ”ということになってしまうわけですね。

また、実際の例として、逃走中に身分証明書を落としたのを拾われて、これが逮捕につながったというケースもあるそうです。

もちろん、逃げ切ってそのままお咎めなし……ということも少なくありませんが、それなりのリスクが伴うということはぜひ覚えておきましょう。

 

■「それでも僕はやってない」はアリか?

ダッシュで逃走がダメなら、その場にとどまって、「自分はやっていない」と徹底抗戦するというのはどうでしょうか。

これもやはり得策ではありません。上で述べたように、身の潔白を証明するのは極めて難しいからです。「この人、ずっと吊革につかまっていたよ」などと証言してくれる人がいればいいのですが、極めてレアケースといえるでしょう。

事件直後であれば、被害者女性も興奮していますから、「やった」「やっていない」と押し問答にしかなりません。

そうこうしているうちに「詳しい話は駅事務室で聞きましょう」ということになり、駅事務室で話をしていたら警察が来て、そのまま署に連行……となればもはや絶望的。“話せばわかってもらえる”という状況ではありません。

 

■実は身分を明かすほうがいい?

逃げてもダメ。説得もムダ。まさに進退窮まる……といった感じです。

そこで、ひとつの善後策として提案できるのは、“被害者に名刺を見せたり、免許証を見せたりして、自分の身分を明らかにしたうえでその場を立ち去る”という方法。

単に逃げるだけでなく、身分を明かしているので“自分にはやましいことはない”というアピールにはなります。

さらに、身分を明かすことには、“逮捕されにくくなる”というメリットもあるのです。以下、痴漢の被害のレベルを(1)服の上から触ったレベル(2)下着のなかに手を入れて触ったレベルの2つに大別して、もう少し詳しく解説します。

 

(1)服の上から触ったレベルの痴漢

服の上から触るレベルは、法律的にいうと条例違反に当たります。条例違反の場合、身分を明かせば逮捕されにくい傾向にあるのです。少なくとも現行犯逮捕はされません(刑訴法217条)。

「おい逃げるな」などと制止する者がいても、「身分は明かしているので、何かあったら連絡ください。急いでますから」と毅然とした態度で立ち去りましょう。

 

(2)下着のなかに手を入れて触ったレベル

一方、“下着のなかに手を入れて触る”レベルは、法律的には刑法上の強制わいせつ罪に当たります。この場合、被害の程度が重いので身分を明かしたからといって逮捕を免れるわけではありません。

被害届を受けて、警察が“嫌疑十分”+”逮捕の必要あり”と考えれば、逮捕状を裁判所に請求して逮捕実行……という可能性はあります。ただし、それなりの根拠がなければ、逮捕状の請求はできません(刑訴法199条)。

前回の記事でも述べたように、満員電車では、被害者自身が犯人の顔をきちんと見ていないことが多いです。

このような状況で、しかも身元がはっきりしている場合には必ずしも“逮捕の必要あり”とはいえないので、後日逮捕されるリスクは低くなるといえるでしょう。

”逮捕の必要性”とは,住居不定や罪証隠滅・逃亡のおそれがあることを指しているのです(刑訴法60条1項)。

 

今回は、「この人、痴漢です!」と不幸にも犯人と間違われた場合の対処法についてお届けしました。

痴漢冤罪シリーズの最終回となる次回は、さらに深刻な事態……すなわち警察・裁判沙汰にまでなってしまった場合の示談金と弁護士費用について解説します。

 

【取材協力】

弁護士法人みずほ中央法律事務所 代表弁護士 三平聡史