ありんすの意味は?実は方言ではなかった「ありんす」のルーツ

時代劇などでたまに耳にする「ありんす」という言葉。艶っぽいイメージですが、具体的にどんな意味がご存じでしょうか? 京都あたりの方言だと思っている人もいるかもしれませんが、実はそうではありません。そこで今回は、「ありんす」という言葉について、深く掘り下げて見ていきましょう。
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1:ありんすの意味は?

まずは「ありんす」の正しい意味から見ていきましょう。辞書で調べてみると、

あり◦んす

[連語]「あります」の音変化。江戸新吉原の遊女が用いた語。

「なんだか、ご法事にあふやうで―◦んす」〈黄・無益委記〉

出典:出典:デジタル大辞泉(小学館)

遊女たちが使っていた言葉は、方言ではなく、廓詞(くるわことば)の一種。独特な言い回しが特徴ですよね。

 

2:ありんすとは方言なの?そのルーツ

(1)そもそも遊郭って何?

遊郭というのは、当時の政府が公認していた、性風俗を扱うところです。有名なのは江戸の吉原遊郭ですね。ほかにも大阪や京都などにあり、半公認のものは全国各地にあったといいます。

吉原遊郭では最盛期では数千人の遊女がいて、江戸の男性において最大の社交場所であったともいわれています。

(2)廓詞(くるわことば)が使われる理由

江戸の吉原遊郭には、いろいろな地方から女性が集まってきて遊女として生活していました。

地方出身の女性は方言や訛りや強く、田舎っぽさがありました。しかし、それでは遊女に夢を見ている男性がげんなりしてしまいます。また、方言が強いと何を話しているのかわからないこともあったそうです。

そのため出身を隠し、少しでも優雅で気高く見えるように「廓詞」が使われていました。つまり、「ありんす」というのも方言ではなく、むしろ逆に、方言を隠すための言葉だったのです。

(3)遊女はどうして地方出身者が多かったの?

遊女の中には、地方の村から売られてきた女の子が多くいました。彼女たちは借金を返すため遊女として働くほかありません。

吉原を訪れる客のほとんどは武士や豪商など、立派な身分の人ばかりです。そういった方たちを相手するためには美貌だけでなく、教養も欠かせませんでした。

遊女として働くには言葉遣いを覚え、字を覚え、そして歌や舞を習得しなければいけません。そういった品を身に着けて、自分の商品価値を高めていったのです。

吉原と聞くと花魁(おいらん)を思い浮かべる人もいると思います。花魁とは吉原だけの呼び名で、高級遊女のことを言います。

 

3:言葉以外も艶っぽい!遊女たちのライフスタイル

遊女たちはその階級によって生活の待遇もまったく違ってきます。

(1)人気によって食事も変わる

下級遊女や見習いは広間に並んで大勢で食事をとっていました。おかずも白米とお味噌汁、小魚の干物ぐらいのものだったといいます。

一方、個室を与えられている高級遊女は、自分の部屋に食事を運ばせていました。おかずも2~3品ありましたし、好きなおかずの出前を頼むということもできたそうです。

(2)自由時間

身支度を整えて、営業時間になるまでの間が遊女たちの自由時間です。見習いや新米の遊女は、この時間に手習い(お稽古や修行)をしていました。

また、手習いをしていない遊女たちも、馴染みのお客さんに手紙を書いたりしていたようです。今でいうキャバクラ嬢たちが、お客さんに営業メールやLINEを送るようなものですね。人気の遊女ともなれば、こうした細かい気遣いが必要で、男心を掴んでいたのでしょう。

当時の女性は文字を書ける人は少なかったのですが、遊女たちが文字を書けるのには、こうした理由があるのです。

(3)花魁道中

一度はこの「花魁道中」という言葉を聞いたことがあるでしょう。

華やかな着物に身を包んだ花魁がお客さんの待つ場所へ向かう、ある種のパレードです。そのとき、花魁は高さ18cmもある大きな三枚歯下駄を履いて歩きます。また八文字を書くように歩いて、色気と華やかさを表現していました。この八文字歩きは3年修行しないと習得できないと言われるほど大変なもので、相当な脚力も必要だったのでしょう。

遊郭のトップスターである花魁は、トレンドセッターでもありました。そのため、花魁道中があるとなれば、男性だけでなく多くの女性たちもひと目見ようと吉原に集まったといいます。

 

4:ありんす以外にも!知っておくべき廓詞(くるわことば)3つ

ありんす以外にも知っておくといい廓詞があります。

(1)あちき

ドラマや映画、本などで遊女の人たちが自分を呼ぶときに「あちき」と呼ぶのを聞いたことがあるかもしれません。辞書で調べてみると、

あちき

[代]一人称の人代名詞。近世、遊女などが用いた語。

出典:出典:デジタル大辞泉(小学館)

高級遊女は「あちき」や「わちき」、下級遊女は「わっち」を使っていたとされています。また、お店によって「あちき」「わちき」「わっち」の違いがあったとも。

(2)あがり

お寿司屋さんで「あがり」といえばお茶のことですが、この「あがり」は、廓詞が語源になっています。

遊郭ではお客さんに出すお茶のことを「上がり花」といっていました。それを略したものが「あがり」で、お茶のことを指すようになったとのこと。

お客が取れずに暇をしている遊女が、裏で茶葉を挽いていました。他人のお客のために茶葉を挽くのは面白くなかったため、「お茶」という言葉そのものが避けられ、「客が(自分の座敷に)あがる」という縁起を担いで「あがり」という言葉で呼ばれるようになったそう。

ちなみに「花」は「出ばな」の「はな」を美しく表現するために「花」という文字を用いたことが由来。とはいえ、最初に出すお茶だけがあがり花ではなく、お客さんにだすお茶すべてをこう呼んだそうです。

(3)ざます

ドラマやアニメなどで、お金持ちの奥様が「~ざます」という語尾をつけています。お金持ちの奥さまの口調として現代で広く認識されていますが、これも廓詞がルーツです。辞書によると、

ざま・す[動]

[動サ特活]「ある」の意の丁寧語。多く補助動詞として用いる。→ざあます

「何でもよう―・す」〈人・春告鳥・初〉

[補説]活用は助動詞「ざます」に同じ。江戸後期、主として、江戸吉原で用いられた遊里語。現在も女性語として用いられることもある。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

ほかにも上品な奥さまの口調を真似るときには「~ざんす」といったりしますね。これも「なんでござんすか」といった廓詞がもとになっています。

 

5:まとめ

ありんすは、もともとは出身や身分を隠すための廓詞のひとつ。これが非日常を演出し、遊郭という場所を特別なものにしていったといっても過言ではないでしょう。

独特な艶っぽさが、形を変えながらも現代に受け継がれていることも面白いものですね。