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選ばれなかった女の愛とセックスを歌うシンガーソングライター・「さめざめ」笛田サオリインタビュー【第5話・前編】―シンデレラになれなかった私たちー
毒島 サチコS.Busujima
Case5:選ばれなかった女性の愛とセックスを歌うシンガーソングライター
名前:「さめざめ」笛田サオリ(シンガーソングライター)
神奈川県出身。報われない恋や、等身大の気持ちを歌い続け、女性たちから大きな支持を得ていて、昨年で活動10周年を迎える。自身のリアルな実体験から、詩と曲を生み出し続けている。
「報われない恋」から曲が生まれる
私は、デビューから10年間ずっと、好きな人に選ばれなかった女性や、セックスだけの関係に苦しむ女性たちの叫びを歌い続けてきました。
幸せで切ないラブソング……世の中には日の当たるメジャー楽曲はたくさんあります。でも、誰かのいちばんになれない人や、セフレとして男性の欲望のままに振り回される女性、セックスやコンドームといった男女のリアルを歌った曲は多くありません。
私の中には、こんな思いがありました。
「こんなに世の中はラブソングであふれているのに、ゴムをつけなくてもセックスするほどあなたが好きなことを、どうして誰も歌ってないの……?」
「さめざめ」という私のプロジェクト名の由来は、「声を押し殺して、すすり泣く」という意味。世界は、キレイな涙が流れるだけの、美しくも切ない恋愛だけじゃない。決して人には言えないけれど、胸が張り裂けそうな、笑顔よりも涙の数のほうが多い恋愛が、世の中には、たくさんあるんじゃないか……。
そう思うのは、私自身の恋愛が、まさにそうだから。
なぜ、私がそうした歌を歌い続けるのか……。
そこで今回は、実体験から作った曲「新宿ドキュメンタリー」が生まれたきっかけとなった恋をお話したいと思います。
シンガーソングライターの「選ばれなかった恋」
私がシンガーソングライターとして活動したいと思いながらも、なかなか動き出せていないままでいた20歳の夏の夜。
ひとつ年上の、舞台俳優の男性に出会いました。
アーティストや役者さんたちが集まる飲み会に現れたその人は、写真を撮ると、必ずいちばん端に写るタイプで、舞台上でもいつも脇役でした。
その日の飲み会は大いに盛り上がり、気づいたときには、とっくに終電の時間を過ぎていました。
お酒を覚えたての20歳前半の男女は、飲み足りずにどこかのお店に入ろうとする人や、朝のホテル街に消えていく人など、散り散りになっていきました。
私はベロベロに酔っ払ってしまって、新宿駅で始発を待とうと、みずほ銀行の交差点前で信号待ちをしていました。すると、隣にふらっと舞台役者の彼が現れたのです。
そして、急に私の手を握って、こう囁いたのです。
「ねえ、ホテル行かない?」
私は驚いて彼の顔を見ました。彼もかなり酔っている様子でした。
初めて出会った人といきなりホテルに行くなんて……。
20歳そこそこのウブな私は、彼を適当にあしらい、連絡先だけ交換して帰路に着きました。
2年後の再会…
その飲み会から、2年が経ちました。新宿駅での朝の出来事を、忘れかけていた22歳のある日のことです。
彼から久しぶりに連絡がありました。
「今度、舞台に出るから見に来ない?」
私は懐かしい気持ちになり、彼の舞台を見に行くことにしました。
彼は、主役ではなかったけれど、演技をする姿はとても輝いていました。
舞台上には、新宿駅の交差点で見たベロベロの男とは違う、好きなことにまっすぐ向き合う彼の姿がありました。この舞台観劇をきっかけに、私は彼と頻繁に会うようになりました。
彼は私が飲みに誘うと、「いいよ」と言って、必ず来てくれます。
特に何をするわけでもなく、会って、ただ飲んで話をするだけ。
表現者同士、創作活動や仕事の話をしては、終電で帰る……。そんな関係が続きました。
でも、ある日の夜、彼は、私を見てこう言いました。
「好きになりそう」
……そんなことを言われてしまったら、たいていの女子なら落ちるでしょう。
私も、あっけなく恋に落ちました。というより、「好きになりそう」と言われて、私はすでに彼のことを好きになっていることに気づいたのです。
でも、私は知っていました。
終電で帰る彼には、一緒に住んでいる彼女がいることを。
「彼女がいる人を好きになるなんて……ダメだ」
最後の自制心を持とうと思いました。
……でも、もう遅かったのです。
彼女がいる人を好きになってしまった
それから、私は積極的に彼を誘いました。
彼も、自分から誘ってくることはないものの、私が誘えば「いいよ」と言って来てくれました。
彼は、丸の内線沿線に住んでいて、会うのはいつも新宿でした。
一緒に住んでいる彼女がいるのを知っていても、私は会いたい気持ちを止められなかったのです。
「ねえ、今日は朝まで一緒にいたいよ」
「バイバイしたくないよ」
私は、そう言って、彼を引き留めようとしましたが、彼は必ず終電で帰ってしまいます。
そして、次第にこんなことを言うようになりました。
「今日お金ないんだよね。悪いんだけど、奢ってくれないかな?」
それは、どんどんエスカレートしていきました。いつの間にか、飲み代だけでなく、ラブホテル代から、ゲームセンターのUFOキャッチャー代ですらも、私が払うようになっていました。
会いたいからお金を貸してたの
くだらない嘘もつかれてたけど
初めて手をつないだ夏の日が
ロマンチックだったから嫌いになれないのかな
──さめざめ「新宿ドキュメンタリー」より
「来週会わない?」と連絡すると、「会えるけど、お金貸してくれないかな?」と言われるようになりました。
私は、会いたいがために、彼にお金を貸してしまいました。
会うたびに一万円を貸しては、次に会ったときに返してもらって、そしてまた貸す……。でも、それがうれしかったのです。お金の貸し借りという、確実に会える口実ができたから……。
お金を貸したらすぐに彼が帰ってしまうような気がして、終電ギリギリにお金を渡すようにしていました。
「ああ、もう終電ないかも」
当時横浜に住んでいた私は、わざと終電を逃すという手を使って、彼と朝まで一緒にいる口実をつくりました。
でも彼は、「俺はまだ終電あるから帰るよ」と言って、スタスタと丸の内線へ向かって歩いていきます。
「え!? ちょっと待ってよ!」
私は人込みをかき分けて彼を追いかけました。でも、彼はいつも丸ノ内線の改札内に、一瞬で消えてしまいます。どんな状況でも、終電が来れば、必ず彼は帰るのです。
会って、お金を貸す。それを口実に会う……。そんな彼との関係は、2年近く続きました。
恋の終わりは突然に
でも、そんな彼との関係の終わりは突如訪れました。
彼との日常を綴っていた私の日記が、2ちゃんねるに晒されてしまったのです。
当時私は「mixi」で裏アカを作って、こっそり彼との恋愛を赤裸々に綴っていました。それを見た彼のファンが、「これって、〇〇さんのことじゃない?」と彼の所属する劇団の2ちゃんねるのスレッドに書き込んだのです。
「女からお金借りてるってまじ?」
「やばー」
「ってかこの日記の女、痛くね?」
そこには、心無い言葉が並んでいました。
書き込みを見つけた彼は、私に向かって「「なんでSNSでそんなこと書いてんの?彼女にバレたらどうするの?」」と激怒しました。
でも私は、彼と特定されるようなことは何も書いていません。そこに並んでいる言葉だって、すべて推測です。
「堂々としてればいいじゃん、俺じゃないって」
私はそう言いました。
でも……彼とは、その事件をきっかけに連絡がとれなくなりました。
新宿にいるたび 終電がくるたび
思い出しちゃうの、あの人やこの人を
チープなアニバーサリーで埋められたこの街で
死にたい、死にたい、死にたい
――さめざめ「新宿ドキュメンタリー」より
22歳から24歳の2年間。彼に会いたいがために貸したお金は、数十万に膨れ上がっていました。
「もう二度と彼に会えないし、お金も返ってこない……」
そんな絶望的な結末。もしかすると、人がたくさんいるこの街では、そうめずらしくないのかもしれません。
私は、そんな痛い過去すらもすべて歌にしてきました。
でも、この話には続きがあります。
それから10年の月日がたとうとしていたある日。私は、彼と再会することになるのです。
――この新宿の街で。
―後編へ続くー
【今回のゲスト】
さめざめ(笛田サオリ)
1982年1月24日生まれ、鎌倉市出身。音楽家・文筆家・作詞家・アクセサリー作家。2012年12月シングル『愛とか夢とか恋とかSEXとか』でビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー。昨年には結成10周年を記念したフルAL『ネオフューチャーメンヘラ』をリリース。
さめざめによるポップアップショップ『さめざめコミケツアー2020 at koenji 』が開催決定!
日程:2020年1月18日~1月31日
時間:10:00~00:00
ヴィレッジヴァンガード高円寺店
※詳しくは「さめざめ」オフィシャルHPをチェック!
筆者プロフィール
愛媛県出身。恋愛ライターとして活動し、「Menjoy!」を中心に1000本以上のコラムを執筆。現在、Amazon Prime Videoで配信中の「バチェラー・ジャパン シーズン3」に「妄想恋愛ライター・永合弘乃(本名)」として参加。
前回までの連載はコチラ
妄想恋愛ライター・毒島サチコが書く「選ばれなかった人」の物語。【連載】シンデレラになれなかった私たち
「どうして私と別れたの?」元彼が語ったサヨナラの理由【第1話・前編】
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次回:2020年1月18日土曜日 更新予定
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